中国減速、「人民元大幅切り下げ」という悪夢 全人代の経済政策説明で起きた3つの「異例」

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鉄鋼を例にとれば、国内需要の低迷を受けて昨年の中国の粗鋼生産量は2.3%減の8億0383万トンと、34年ぶりに減少した。ところが中国には粗鋼の生産能力が12億トンもある。実に4億トンが余っているわけだ。日本の粗鋼生産量が年1億トンということを思えば、問題の深刻さは想像を超えるレベルといえる。

膨大な鋼材を国内では消化しきれないため、海外への投げ売りが拡大。中国の15年の鋼材輸出は1億1240万トンと、前年より2割も増えた。にもかかわらず、金額は逆に1割以上減った。いかに強烈な叩き売りだったかがわかる。

生産能力を大幅に削減

中国政府は今後5年で粗鋼生産能力を1億~1.5億トン削減する考えだ。現状の生産能力の1割前後を減らすことになる。石炭では3億トンの生産能力削減が計画されている。設備が環境や省エネに関する国の基準を満たさなかったり、3年連続で赤字の企業が、地方政府によってリストラを強制されることになりそうだ。これに伴って生じる失業者は100万人以上とみられ、その再就職支援のため1000億元(1元は17.3円)の国費を投入することが決まっている。

しかし、鉄鋼や石炭といった産業が立地する地域に新しい就職口があるかというと、そう簡単ではない。市場原理による淘汰ではなく、地方政府がリストラ対象を選定するという仕組みがどれだけ有効に働くかも疑問符がつく。結果的にうまく行かなかった場合、過剰生産能力のはけ口はやはり一帯一路ということになりかねない。このあたりをあえてぼかすため、輸出入の方向性については明らかにしなかったのかもしれない。 

経済の減速ぶりが中国政府の想定を超えた場合、為替レートの安定を重視する現在の通貨政策を方向転換して人民元を大幅に切り下げる可能性もある。そうなれば中国製品の輸出競争力は一気に高まるが、これは周辺国にデフレを輸出するということにほかならない。さらには世界的な通貨切り下げ競争に発展するリスクもある。こう考えると、貿易総額の目標が示されなかったことが非常に不気味に思えてくる。

西村 豪太 東洋経済 コラムニスト

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にしむら ごうた / Gota Nishimura

1992年に東洋経済新報社入社。2016年10月から2018年末まで、また2020年10月から2022年3月の二度にわたり『週刊東洋経済』編集長。現在は同社コラムニスト。2004年から2005年まで北京で中国社会科学院日本研究所客員研究員。著書に『米中経済戦争』(東洋経済新報社)。

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