プリズン・トリック 遠藤武文著
何より殺人の舞台といきさつが異色である。
交通刑務所という特異な空間、それも密室で受刑者が殺され、犯人が逃亡し、犯人と死んだ受刑者がどうやら入れ替わっているらしいとわかってくる導入部には引き込まれる。その後も交通事故の被害者や加害者、その家族、刑務官、刑事、保険会社社員、政治家などが交錯し、時に入れ替わり、話は二転三転、よほど注意して読まないと混乱しかねない。
交通刑務所の内情と交通事故の加害・被害をモチーフとした構想とトリックはよく練られている。ただし登場人物が多彩すぎて枝葉の人物にまで冗舌な心理描写があったり、主人公と思った人物がそうではなくなったり、もう少し刈り込んでもよかった。中盤から終盤へと瑕疵が若干目につくのも惜しまれる。
とはいえ、社会性を保ちつつ本格推理に挑戦した意欲は高く評価されてよい。今年度江戸川乱歩賞受賞作で、二重処罰を禁じた憲法39条が重要な伏線になっている。(純)
講談社 1680円
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら