マイナス金利に対する「過剰反応」の正体 リスクに対して前向きに行動することが必要

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年金や銀行利息の目減りが不安な高齢世代の方は、現役世代の労働環境の改善には好感しないのだろうか(金融緩和強化による労働市場の改善で、2013年以降ブラック企業の問題が話題になることは少なくなったように思える)。実際には脱デフレが完遂して、将来金利水準が正常に戻れば年金の運用益も増えるので将来不安がむしろ和らぐ。むしろ、過去20年デフレと資産デフレも長期化したことが年金制度への不信を強めていた、と筆者は考えている。

インフレ環境を望まない声が顕在化

デフレとは、債務者(ローンを抱える家計、銀行借入れに依存する企業)から、債権者(預金・債券を保有する家計や企業)への強制的な所得移転が起きる状況だが、そうした環境で経済活動全体は委縮する。それでも、現預金の購買力向上の恩恵を強く受けた一部の方は、相対的な豊かさを感じることができた。そうしたデフレ環境の経済行動を変えることが、マイナス金利導入の狙いと位置づけることができる。

マイナス金利はわかりやすさの点で、量的金融緩和よりもインパクトがあり、先に挙げた将来不安などを理由に挙げて、低金利政策を含めた金融緩和に対する過剰な批判につながったようにみえる。インフレという正常な経済環境が望ましいと思わない、長期デフレによって「相対的な豊かさ」を享受していた方々の声が、マイナス金利導入後のメディアの報道を通じて顕在化したのだと、筆者は解釈している。

マイナス金利は、企業・金融機関・家計などのリスク回避的な行動を、積極化させることで、ポートフォリオリバランス効果として景気刺激効果が顕在化する。預金金利の低下や、将来不安などを過度に強調するメディアの声に惑わされず、「金利」がほぼなくなる状況が一時的に訪れたことを冷静に認識し、リスクに前向きに行動することが必要である。

村上 尚己 エコノミスト

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むらかみ なおき / Naoki Murakami

アセットマネジメントOne株式会社 シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、外資証券、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。

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