マイナス金利に対する「過剰反応」の正体 リスクに対して前向きに行動することが必要

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前回コラムで触れたが、マイナス金利政策で、仮に信用創造を担う銀行部門に対して過度な負担がかかる副作用が大きくなれば、信用創造機能の低下を通じて、マイナス金利はトータルでネガティブに影響する可能性がある。マイナス金利による銀行収益やリスク許容度への影響は見極めが難しく、これを理由にマイナス金利を批判する見方は一定程度理解できる。マイナス金利が逆効果となってしまうリスクシナリオである。

ただ、先行してマイナス金利を導入したユーロ圏の事例や、日本銀行の現行の制度設計を踏まえれば、マイナス金利導入による銀行部門への付加は限定的と筆者は考えている。

消費を抑制するとの批判の根拠は

一方で、筆者が理解を示す副作用とは別のいくつかの観点から、日本銀行のマイナス金利政策に批判的な議論が散見される。一つは、マイナス金利導入による一段の金利低下が、個人消費を抑制するとの見方である。マイナス金利=「預金者(生活者)への罰」(銀行預金がマイナスとなる可能性は極めて低いが)であり、年金運用益が減ることなどを挙げて、将来不安から個人消費が抑制されるなどの議論である。

ただ、金融緩和の本来の目的に立ち返れば、こうした批判な見方は妥当とは言いがたい。1990年代半ばから20年弱にわたり、不完全雇用とデフレが続いた日本経済を観察してきた筆者は、「家計収入を増やすために金利を早期に引き上げるべき」という、生活者目線の早期利上げの提案に何回か驚かされたことがある。金利低下で個人消費が減るので経済成長を阻害する、というのは同様に理論に基づかない議論に見える。需給ギャップの安定化と、完全雇用を実現のために、金利水準に影響を及ぼすのが金融政策だが、その一貫としてマイナス金利導入が決定されたことに対する理解が十分ではないように思われる。

将来の銀行預金の利息などを老後の生活資金として計画する家計にとって、金利低下が将来の所得の目減りをもたらし、消費を減らす要因になるかもしれない。一方で、経済活動の主役であり、子育てなど多くの責任を負う現役世代にとって、先にあげた住宅ローン金利低下など、住宅や耐久財消費財購入の選択肢が広がる恩恵がある。

なぜなら、マイナス金利導入によるポートフォリオリバランス効果で景気回復が後押しされ、労働市場の需給が一段と改善し職を得る機会が増える(日本経済は完全雇用には達していないと筆者は考えている)からだ。そして、賃金上昇によって働き手である現役世代の所得拡大を後押しする。もちろん、現役世代だけではなく、働きたい元気な高齢者の方々の所得も増えると考える。マイナス金利政策は将来不安を高めるのではなく、日本経済の成長を底上げることで、現役世代の不安を和らげ生活を豊かにするだろう。

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