生保、マイナス金利でリスクテイクが困難に 国債金利急低下が生保の経営体力を圧迫
マイナス金利政策の導入までは、いわゆる生保の逆ざや問題を過去の話として捉える見方が目立っていた。低金利状態は続いているものの、生保が保険契約者に保証している利回り=平均予定利率が徐々に下がってきたため、毎期の決算で各社が公表する「逆ざや額」はほとんど解消しているためだ。2015年9月期決算では、大手をはじめとする国内系生保10社のうち、逆ざや状態にある会社は2社だけだった。
しかし、逆ざや問題の本質を「過去に高い予定利率の契約を大量に販売したこと」にあるとすると、問題は一向に解消していない。生保各社はディスクロージャー誌で契約年度別の責任準備金(保険契約者に将来保険金を支払うために積み立てている額、個人保険・個人年金保険が対象)を公表している。この内訳を見ると、1995年以前に獲得した高利率の契約は、実のところ今でも決して小さくないことがわかる。例えば大手生保の場合、個人保険・個人年金保険の責任準備金の4割前後を占めている。
経営体力圧迫で積極的にはリスクをとれない
金利水準の低下が生保の健全性に悪影響を及ぼすのは、過去の高利率契約が重荷となっているからではなく、金利変動によって経営体力が大きく左右されるリスクを抱えており、金利水準が下がると高利率契約の負担が一段と重くなるためである。仮に生保が資産と負債のキャッシュフローを完全にマッチングすることができていたら、いくら金利が下がってもバランスシートの健全性は損なわれない。
1990年代以降の金利低下によって苦しめられた経験を踏まえ、2000年代半ば以降の生保は、経営体力の充実を図るとともに、超長期国債を積極的に購入してきた。保有資産を長期化することで、負債と資産とにズレがあることで生じる金利変動によるリスクを小さくする取り組みを進めてきたのである。生保は国債が低リスクの資産だから持つのではなく、金利変動のリスクをヘッジする数少ない手段だから保有しているのである。リスクコントロールの状況は会社によって違いはあるが、大きな流れは共通している。
これまでの資産の長期化の取り組みに加え、2000年代以降の内部留保積み増しが功を奏し、多少ストレスがかかっても、生保経営の健全性が大きく揺らぐような事態は総じて考えにくい。ただ、保有資産を長期化することで金利変動のリスクを軽減してきたといっても、完全な資産と負債のマッチングからは程遠い。このため、今回のマイナス金利政策の導入により、多くの生保のバランスシートが実質的に毀損した。
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