シャープ買収先、みずほが鴻海を推す「必然」 メリットは株買い取りだけではない

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みずほと鴻海は約15年間にもおよぶ、深い付き合いがある(撮影:今井康一)

もちろん、これらの融資はすべてシンジケートローンで、みずほ1行のものではない。みずほ以外の日系金融機関が貸し手に加わっている可能性は十分にあるし、特に2000年に融資した東海は、現在の三菱東京UFJに繋がる銀行でもあるため、三菱東京UFJが現在も鴻海の貸し手であってもおかしくない。それでも15年間にわたり、常に主幹事を務めてきたみずほは、その他の銀行とは別格で、鴻海の成長を後方から支援してきたといってよい。町工場から叩き上げた鴻海に対し、台湾政府や地元の大手商業銀行は積極的に支援しなかったとされるから、みずほに対する鴻海の恩義の念も深いはずだ。

一方で、2000年時点で鴻海を見出した、みずほも目のつけどころが鋭かった。今や鴻海の年商は15.9兆円(2014年12月期)。電子製品の組み立て工程という、最も付加価値の低い部分を請け負う業態のため、利益率は決して高くないが、財務は極めて健全だ。

2014年12月期のEBITDA(税引前利益に減価償却費や支払利息を足したもの。どれだけキャッシュを生み出しているかを示す概念)は8048億円。同時点の有利子負債1兆5754億円を、1.95年間で全額返済できる計算になる。仮にシャープ買収関連費用7000億円をこれに上乗せしても、3年以内で返済可能であり、日立製作所より返済能力が高い。毎期生み出すキャッシュ以外に、現金および現金同等物が2.5兆円(2015年9月末)あるのも、銀行としては安心して貸せる要素だ。ちなみに、シャープのキャッシュ創出力に対する負債の重さは、12年間投資を全くせずひたすら返済してやっと一掃できるほど、厳しい状況である。 

この鴻海に対して、みずほが引き続き良好な関係を保ちたいと考えるのは、至極当然だ。また、シャープが鴻海の傘下に入れば、金融機関はシャープ自身の返済能力に鴻海の支援力を加味して、融資判断をできる場合がある。そうなれば、すでに処理した、シャープの貸倒引当金が戻入益として利益計上できる可能性もある。その意味では、みずほ、三菱東京UFJを含む金融債権者すべてが、「本音では鴻海推し」ではないだろうか。
 

杉本 りうこ フリージャーナリスト

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すぎもと りうこ / Ryuko Sugimoto

兵庫県神戸市出身。北海道新聞社記者を経て中国に留学。その後、東洋経済新報社、ダイヤモンド社、NewsPicksを経て2023年12月に独立。

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