シャープ買収の神経戦、鴻海か革新機構か カネか経営形態か、再建巡る攻防は大詰め
「天下無難事、只怕有心人(世の中に難しいことはなく、何事も心掛け次第である)」──。中国の古典小説『紅楼夢』の一節だ。
渦中の人物、台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業の郭台銘(テリー・ゴウ)董事長は、かつて東洋経済のインタビューで自身の成功の理由を聞かれると、この言葉を引用した。彼にとっては今回の案件も“心掛け次第”なのだろう。積年の夢であるシャープ買収に向けて、ラストスパートをかける。
旧正月目前の2月4日、台湾では、鴻海の大忘年会が予定されていた。毎年、総額100億円規模の抽選会を実施して、社員の1年間の労をねぎらっている。しかし、シャープの高橋興三社長から郭董事長へ、本格的に交渉したいとの連絡が入ると、予定を急きょキャンセル。シャープから台湾へ人を派遣すると申し出があったが、一刻も早い決断を望んだ郭董事長は、会社から着の身着のままで空港に向かった。
明けて2月5日に行われた出資交渉には銀行団も参加。協議は9時から17時すぎまで8時間以上にも及んだ。
鴻海に優先交渉権は与えたのか
「シャープを分解することはない」「40歳以下の若い社員の雇用は守る」「銀行には一銭たりとも損をさせない」など、経営陣や銀行関係者に猛烈なアピールを展開。協議終了後、会見に応じた郭董事長は「シャープの取締役会から優先交渉権をもらった。感謝している」「交渉は9割乗り越えた。残り1割は法的な規制。問題ない」と豪語し、シャープ再建のパートナーは決まったかに見えた。
が、その1時間後にシャープが発表した声明では、「鴻海に優先交渉権を与えた事実はない」と否定された。2月29日までに鴻海の提案に答えを出すことのみ決定したという。交渉直後にもかかわらず、両社のメッセージは真っ向から対立するものだった。
シャープが即時否定に動いた背景には、官民ファンド・産業革新機構(以下、機構)も選択肢に残しておきたい、という事情がうかがえる。鴻海に心が傾いているとはいえ、正式決定まで機構に愛想を尽かされては困るのだ。
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