シャープ買収の神経戦、鴻海か革新機構か カネか経営形態か、再建巡る攻防は大詰め
鴻海の攻勢は、対銀行だけでない。機構が現経営陣の退陣を求めているのに対し、鴻海は留任を約束しているのだ。「高橋社長が経営権を握ったときにはすでに経営難に陥っていた。資金力もなく営業畑でやってきたのに、こんな難局を任されプレッシャーだったはず」と郭董事長は高橋社長を擁護すらした。
迷走続く経営陣の能力を郭董事長が買っているとは考えにくい。だが、「台湾人が日本企業を急に経営しようと思っても無理。1年くらいであれば、むしろいてほしいと思う」(企業買収に詳しい早稲田大学の服部暢達客員教授)ことから、ひとまず現体制を据え置くものとみられる。当の高橋社長も、2月4日の会見では「『辞めるつもりか』の問いにはNO」と、続投に意欲をにじませた。
が、仮に鴻海と正式契約まで至ったとしても、シャープ再建の道のりは容易ではない。「シャープブランドは鴻海に魅力だが、在庫や広告宣伝費を抱えるビジネスでは初心者。(似たような例で)台湾のコンパルが、欧米で東芝ブランドのテレビの製販を始めたものの、うまくいっていない例もある。シャープを経営する当事者能力として鴻海は未知数だ」(みずほ証券の中根康夫アナリスト)。
1カ月間で最終的なパートナーを選び、再出発することができるのか。シャープにもう間違いは許されない。
鴻海と機構、それぞれの言い分
「銀行債務はわれわれがすべて負う。決してシャープを解体しない」
鴻海精密工業董事長●郭台銘(テリー・ゴウ)
今回の交渉ではシャープと鴻海精密工業の双方に利益を見いだせた。シャープの高橋興三社長は「取締役会で可決されたので、今後は優先して鴻海と交渉したい」と言ってくれている。
資産査定では太陽光パネルが一番の赤字の元凶とわかった。これをいかに迅速に“止血”するかだ。一方、液晶では世界トップだったが、ここ数年投資していないので、韓国に抜かれてしまった。われわれには顧客基盤と受注規模があり、次世代技術に投資すれば、シャープは世界一のパネル企業に返り咲ける。
銀行にも利益がある。われわれはすべての銀行債務を負う。また日本政府の理解も必要。7000億円に迫る巨額投資だから、対日投資としても大きなプロジェクトだ。特に若いエンジニアやワーカーはすばらしいし、40歳以下の人を切ることはしない。われわれも旧堺工場で経験があり、若手はイノベーションを持っているので、彼らに出資する認識だ。
シャープには強いブランドがある。政府から資金が入るわけではないし、新たな創業という形にしたい。私は決してシャープを解体しないと誓う。(談)
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