アニマルスピリット 人間の心理がマクロ経済を動かす ジョージ・A・アカロフ、ロバート・J・シラー著/山形浩生訳 ~経済学研究が進むべき方向を示す提言の書

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アニマルスピリット 人間の心理がマクロ経済を動かす ジョージ・A・アカロフ、ロバート・J・シラー著/山形浩生訳 ~経済学研究が進むべき方向を示す提言の書

評者 駒澤大学経済学部准教授 飯田泰之

 あまりにも有名な2人による著作、魅力的な表題……。本来書評不要な著作と言ってもよいかもしれない。しかし、本書のタイトルを見て、経済危機脱出のための起業家精神の必要性といったビジネス書のような展開を期待してはいけない。また、副題を見て痛快な経済学批判を想像する読者にもお勧めできない。本書は現在のアカデミックな研究動向を踏まえ、これからの経済学研究が進む方向を示す提言の書である。

著者が重視するのは数値化可能な、象徴的にはキャッシュによって、表示されない動機と経済状態とのインタラクションである。これらの動機として「安心」「公平」「腐敗と背信」「貨幣錯覚」「物語」の五つの心理的なファクターが取り上げられる。なお、本書での「アニマル・スピリッツ」とはこれらの経済外的な動機の総称であり、ケインズが『一般理論』で言及したそれよりも広い意味を与えられている。

1970年代以降のマクロ経済学は理論的純化を求めるために経済外的な動機を過度に軽視し続けた。長期にはこれらの経済外的なインセンティブの影響は減衰するため、たいした影響力をもたないというのがその言い訳である。しかし、経済理論の想定する「長期」は人間の時間感覚からは考えも及ばぬ先の話かもしれないのだ。

自由な経済活動と経済的インセンティブが予定調和的に最適な経済状態と完全雇用を生み出す「長期」とは異なり、現実的な時間視野における経済活動はアニマル・スピリッツが支配する世界であると著者は考える。

マクロの経済環境を決定する投資や貯蓄の意思決定は安心の連鎖や物語から大きな影響を受ける。腐敗や背信は取引の利益そのものを減じる。そして賃金に関する公平性の概念、実質的な価値よりも金額が気になる貨幣錯覚は非自発的失業を生むことになる。アニマル・スピリッツをコア概念とした経済理解に基づくと適切な経済安定化の重要性が再発見される。

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