優れた上司は、部下の「尖った部分」を活かす 人の個性を削ると、後には何も残らない

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組織も同じです。仕事は一人ではなく、チームでするものです。形はさまざまでも、組み合わせることで強い石垣がつくれればいいのです。組み合わせたとき、隙間ができてしまうのなら、「小さな石」を入れて、埋めたり、つないだりすればいい。

その「小さな石」こそ、上司(マネジャー)の役割です。

部下の個性を無理に変えるより、個性を生かし、特長を組み合わせながら仕事をする。みんなを同じ形に整えてしまうと、個性も、強さも、失われてしまう。

ルーチンが好きな人を、マネジャーにする必要はない

出口治明(でぐち はるあき)●1948年、三重県生まれ。ライフネット生命保険株式会社・代表取締役会長兼CEO。
京都大学法学部を卒業後、1972年、日本生命保険相互会社入社。企画部や財務企画部にて経営企画を担当。生命保険協会の初代財務企画専門委員会委員長として、金融制度改革・保険業法の改正に従事。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て同社を退職。その後、東京大学総長室アドバイザー、早稲田大学大学院講師などを務める。2006年にネットライフ企画株式会社設立(のちのライフネット生命保険株式会社)、代表取締役社長に就任。ライフネット生命保険を2008年5月に開業し、2012年3月15日に東証マザーズ上場。2013年6月より現職。著書に『図解 部下を持ったら必ず読む「任せ方」の教科書』(KADOKAWA)のほか、『本の「使い方」』(KADOKAWA)『生命保険入門』(岩波書店)などがある。
ツイッター:@p_hal

上司と部下の関係は、「任せ、任される」のが理想ですが、部下の中には、「仕事を任されたくない」と感じる人もいます。

すべての社員が管理職になるわけでも、なりたいわけでもありません。部下の価値観を無視して、上司の価値観を押し付けるのは、一種のパワーハラスメントです。

会社の業務の大半は、ルーチンワークと言えます。単純な事務作業をミスなくスピーディに行う人も、会社にとって大切な存在です。

「責任の大きな仕事より、ルーチンワークで力を発揮したい」人には、マネジャーレベルの責任の大きな仕事を任せてはいけないのです。

「人には、得意・不得意がある」ことがわかっていない上司は、「頑張って努力を続ければ、必ず苦手を克服できる」と考えがちです。ですが僕は、この考え方に反対です。

人は「得意なもの」を伸ばしていくべきです。そして、みんなが「得意なもの」を伸ばしてチームをつくるのが、もっとも合理的です。極論すれば、苦手は、克服しない。苦手なものは、誰かに補ってもらう。誰かに教えてもらう。チームは、そのためにあるのです。

僕がアメリカで、投資顧問業界のあり方を調査しているとき、「ファンドマネジャー(投資顧問会社の資産運用の担当者)」の育成に関して、とても興味深い話を聞きました。

話をうかがったA社の社長は、「どんな局面でも乗り切れるような、万能タイプのファンドマネジャーを育てるつもりはない」という考え方を持っていたのです。

人には「向き・不向き」があります。攻めが得意な人は守りが苦手で、守りが得意な人は攻めが苦手なものです。「万能な人材」など、いないのです。

だとしたら、攻めが得意な人は攻めを、守りが得意な人は守りを極めればいいのであって、「攻めが得意な人に守りを覚えさせたり、守りが得意な人に攻め方を教えたりする必要はない」と、A社の社長は言い切ったのです。

「三つ子の魂百まで」と言われるように、人の性格は、そう簡単には変わりません。弱気な人に「もっと強くなってこい」と時間をかけて修練を積ませても、大きな変化は期待できません。だとしたら、その人に「向いている仕事」を任せたほうが成果は望めます。

だから、上げ相場のときには強気のファンドマネジャーを、下げ相場のときには慎重なファンドマネジャーを起用する。一人のファンドマネジャーに、上げ相場も下げ相場も任せるのではなく、2人を組み合わせながら、任せればいいわけです。

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