恐慌脱出 危機克服は歴史に学べ 安達誠司著 ~実証データで歴史を押さえ、斬新な切り口で分析

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恐慌脱出 危機克服は歴史に学べ 安達誠司著 ~実証データで歴史を押さえ、斬新な切り口で分析

評者 早稲田大学政治経済学術院教授 若田部昌澄

 2006年3月、日銀が量的緩和政策を解除したときのことである。多くのエコノミスト、メディアはこれを「金融正常化」の一環として歓迎した。著者の安達氏はそのときデフレ脱却に失敗することを懸念し、異論を唱えた少数派の一人であった。

その後の歴史は安達氏の予言の正しさを証明したといってよい。日銀の金融引き締めからほぼ18カ月後、07年末には日本の景気は他国に先駆けてピークを打ち、サブプライム危機の被害が少ないはずの日本経済が先進国で最大の落ち込みをみせている。

安達氏の強みは、実証データで歴史を押さえていることだ。分析の切り口はいつもながら斬新であり、本書には将来を読み解くいくつものヒントが隠されている。

一例が「1907年恐慌」に注目したことだ。これはアメリカはともかく、日本では初めてだろう。わずか一つの金融機関の破綻による精緻な金融ネットワークの崩壊、国際資本市場を通じての金融危機の世界的伝播、「証券化商品」ならぬ「信託会社」という金融革新、そして緊縮財政に固執した日本での政策対応の失敗による景気低迷長期化など、歴史は不気味なほど教訓に満ちている。

また30年代大恐慌について氏は自家薬籠中のものとしており、読み応えがある。かつて氏が日銀「出口戦略」の失敗を予言できたのは、36年にルーズベルトと連邦準備制度理事会(FRB)が量的緩和解除に乗り出した教訓を見出したからである。そこから今後のリスクの一つとして、アメリカFRBの早すぎる出口戦略発動があるという。

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