総合小売業者の収益は急速な景気悪化で一段と低下《スタンダード&プアーズの業界展望》

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主席アナリスト
吉村真木子

 多くの小売業者の販売不振が続いている。経済産業省の商業販売統計によると、小売業の商業販売額の落ち込みは下落率(前年比)の最も大きかった2009年2月以降、改善しているものの、依然、厳しい状態である。

深刻な消費環境を反映して、スタンダード&プアーズは、ファーストリテイリング(A/安定的/--)を除き、総合小売り(GMS)大手3社(セブン&アイ・ホールディングス、イオン、ユニー)のアウトルックを「ネガティブ」としている。直近では、2009年2月3日に、イオンのアウトルックを「ネガティブ」に下方修正した。ここ数年の買収や事業投資の収益寄与が限定的なうえ、新規出店による先行投資が続いていることに加え、国内外の消費環境の急激な悪化を受けて収益力が低下しているため、早期に収益・財務基盤が改善する見通しが遠のいたと判断したことに基づく。

セブン&アイ・ホールディングス(AA−/ネガティブ/--)やイオン(A−/ネガティブ/--)など大手GMSでは、消費不振を打開するために、今年に入り相次いでプライベート・ブランド(PB)商品などの価格を引き下げている。価格引き下げに当たっては、各社とも粗利益率の改善を図ったうえで商品化しているとみられるが、集客力を向上させて価格引き下げ前を上回る販売量を確保できなければ、収益は減少し、人件費などの固定費負担をカバーできない。スタンダード&プアーズは、各社が価格引き下げ後も一定の営業利益と収益性を確保できるか注視しているが、最近の消費不況を考えると、低価格化によって収益基盤が一段と毀損する可能性は捨てきれないと考えている。また、各社が取り組んでいる業態転換、閉店、コスト削減といった構造改革は、比較的小規模だったり、取引先との交渉が必要なものも多いため、収益を短期的に大幅に改善させるとは考えにくい。

その他の主要小売業態についても、程度の差はあれ、先行きの事業環境の厳しさは共通している。唯一好調だったコンビニエンスストアは、タスポ特需に支えられた販売額増加の反動を懸念している。セブン−イレブン・ジャパン(AA−/ネガティブ/--)をはじめ、各社も低価格化を余儀なくされ、収益への影響が懸念されるほか、ローソン(格付けなし)によるam/pm買収が破談となり、業界再編によるオーバーストア状態の解消が一向に進まないことも、ネガティブな要因である。

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