総合小売業者の収益は急速な景気悪化で一段と低下《スタンダード&プアーズの業界展望》

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 最も売り上げが減少している百貨店各社の厳しい収益環境は当面変わらないだろう。そのなかで、セブン&アイ傘下のそごう、西武百貨店は、不採算店の売却・閉店を打ち出したことで、ある一定程度の収益改善があると考えている。閉店後に他業態のグループ店が出店することも考えられるため、グループ全体での商圏を維持するのも、ある程度可能だろう。アパレル・衣料系専門店については、イオン傘下の米タルボットが消費不振の直撃を受けてリストラを推進中であり、またユニー傘下の衣料系専門店も苦戦が続いている。しかし、ファーストリテイリングのように、優れた商品開発・生産・在庫コントロールによって、大幅に前年を上回る売上高を確保している企業もある。今の勢いからすると、競争力格差がさらに広がる可能性が高い。

このように小売各社は厳しい収益環境に直面しているが、そのなかでも、海外展開と金融事業で実績をあげている大手小売業は、相対的に収益の安定度が高いとスタンダード&プアーズは考えている。少子高齢化と過当競争で縮小傾向が続く国内小売市場よりも、所得水準の向上により消費が増加しているアジア地域などでの成功が、各社の収益力を大きく左右する可能性が高い。イオンの中国・アジアのショッピングセンター運営事業、セブン&アイの米国セブン−イレブン、ファーストリテイリングのアジアを中心とする海外ユニクロ事業などの成功例は、日本で培った品揃えやPBも含む商品開発力(商品政策)、商品調達力、店舗運営ノウハウなどに支えられたものである。

また金融事業も、今のところ、過度な信用リスクや市場リスクにさらされる事業モデルになっていないため、消費の不振が続いたとしても、安定的な手数料収入をもたらす収益源とスタンダード&プアーズは認識している。小売業者が手がけるクレジットカード事業は、キャッシング債権に関して過払い利息返還に関する費用負担が発生したものの、その影響は消費者金融専業者などに比べて軽微だった。カードの利便性を向上させて、優良顧客を獲得し続け、取扱高の増加につなげられるかが、収益拡大のカギである。電子マネーでは、他社との提携で、取扱店舗数が拡大しているため、手数料収入の拡大が期待できるビジネスである。

一方、デベロッパーや不動産賃貸事業も小売各社への収益に貢献しているものの、景気悪化・消費不振を受けてテナント企業から賃料の引き下げを要求されるケースが今後増え、収益環境はやや厳しいと考えている。

今後1−2年、主要小売業態の既存店売上高の減少が続き、各社の収益性指標が悪化したり、積極的な株主還元策や事業・設備投資の継続的な実施で財務の保守性・健全性が大きく損なわれると判断した場合は、格下げを検討する。なかでもイオンの信用力向上に関しては、GMS・専門店事業の立て直しと出店抑制などによりフリーキャッシュフローを確保し、有利子負債の削減を進め、財務負担を緩和することが必要であるとスタンダード&プアーズは考えている。

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