巨額の貿易黒字にもかかわらず、中国人民銀行は、為替レート下支えを目的とする大規模な介入を迫られてきた。このあまりにも大規模な介入の結果、外貨準備高は2015年に5000億ドル減少した。これほど抜け穴の多い資金管理では、中国の3兆ドルの軍資金は、いつまでも持ちこたえるには十分ではないだろう。
実際、人々が元相場の下落を懸念すればするほど、すぐに資金を国外へ持ち出したい気持ちはますます強くなる。そして今度はこの不安感が、中国の株式市場を押し下げる重要な要因になっている。
中国が1回限りの大規模な切り下げ、つまり下げ圧力を緩和するに十分な10%の人民元切り下げを行うのではとの市場の思惑は大きい。しかし、中国は不公正な貿易相手国だと考えるドナルド・トランプの支持者たちにネタを提供することになるのはさておき、これは金融市場からあまり信用されていない政府にとって非常に危険な戦略だ。主なリスクは、大規模な切り下げを行えば、中国経済の鈍化が一般の受け止めよりはるかに深刻だと見られかねないことだ。そうなれば、資金は引き続き流出するだろう。
まずは市場の信認を
中国が信用できる経済指標の発表の手法を学ばない限り、市場とのコミュニケーションは簡単には改善しない。中国の2015年の国内総生産(GDP)伸び率が政府目標の7%を僅かに下回る6.9%と発表されたのは、大きなニュースだった。この差は大したことではないだろうが、市場はこれを最重要事項として扱った。政府がその目標に十分迫れるだけの数字を出せないのなら、事態は本当に悪化すると投資家が考えているからだ。
当局がまず着手すべきなのは、エコノミストの委員会設置を通じて、現実的で信頼できる過去の一連の国民総生産(GNP)の数値を発表することだろう。一方、為替相場の変動圧力を緩和するための政府の目下のアイデアは、米ドルだけではなく、13通貨のバスケット制で人民元相場を固定することだ。これは理論的には良いアイデアだ。しかし実際には、バスケット制は慢性的な透明性の問題を抱えがちだ。
2016年にドルの相場が下落すれば、バスケット制では人民元の対ドル相場はさらに上昇することとなってしまい、不都合だろう。政府は違法な資金流出の取り締まりを厳格化する方針も示唆しているが、一度流出したものを元に戻すのは容易ではない。
まだ状況が良かったうちに、われわれの一部が10年以上にわたって忠告してきたように、中国が人民元相場の弾力性の度合いをもっと高めていれば、今頃はもっと楽になっていたことだろう。恐らく当局は、2016年は持ちこたえられるはずだ。しかし、グローバル市場を巻き込む形で、人民元が引き続き乱高下する可能性は高い。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら