パイオニアまで救うのか? 問題山積の公的資金による資本増強 

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パイオニアまで救うのか? 問題山積の公的資金による資本増強 

初夏を思わせる明るい日差しの下、工場はひっそり静まり返っていた。時折ゲートを走り抜けるのは宅配便など出入り業者の車両ばかり。製品出荷のトラックは3時間で1度しか見かけなかった。

静岡県袋井市に立地するパイオニアのプラズマテレビ工場。プラズマ事業低迷で2008年春から山梨、鹿児島と関連工場を相次ぎ閉鎖したが、静岡だけは最後のテレビ工場として組み立て工程を続けてきた。だが09年2月、パイオニアがついにプラズマ完全撤退を発表したのを受け、静岡工場も閉鎖となる見通しだ。

段階的なリストラを経ながらも、静岡工場ではまだ正社員を含む約300人が働く。勤務歴19年の女性社員はため息をつく。「もっと早く工場閉鎖が決まっていれば、再就職の口を探せたかもしれない。でも今では見つかるかどうか不安」。地域の有効求人倍率は08年3月、1・1倍あったが、昨秋以降の景気悪化で、現在は0・3倍にも満たない。

打撃を受けているのは、地域の雇用だけではない。袋井市内には部品メーカーなど静岡工場と直に取引する地場企業が少なくとも3社ある。運送業などの出入り業者や工場周辺のサービス業にとっても工場閉鎖は痛手だ。袋井商工会議所の高橋徹事務局長は、地場企業からこんな声が漏れると話す。「不況になれば、われわれ中小企業は真っ先に苦しい。でもパイオニアさんみたいな大手は“国の支援”で生き残れるのですね」。

パイオニアが近く申請する見通しの“国の支援”とは、改正産業活力再生特別措置法(改正産活法、4月成立・施行)に基づく出資だ。小谷進社長は5月中旬の決算説明会で、「当面必要な資金400億円の一部として、公的資金の申請を検討している」と明言した。

改正産活法による出資を受けるには、四つの要件を満たさなくてはならない。すなわち(1)売上高が四半期で前年同期比2割以上減など急減している、(2)財務制限条項に抵触するなどで出資が必要、(3)連結従業員が5000人以上など国民経済への影響が大きい、(4)民間金融機関の支援がある、--だ。経済産業省は「本来なら倒れない企業が一時的に直面する資金繰り問題の対策として出資を可能にした」と説明する。具体的には、経産省(製造業、流通・小売業等)、金融庁(金融機関等)、国土交通省(建設業、運輸業等)など事業所管省庁が産活法適用を承認した上で、政投銀が出資の可否を決定。将来、損失が発生した際にはその一部を日本政策金融公庫が財投資金から補填する、という枠組みだ(下図参照)。


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