パイオニアまで救うのか? 問題山積の公的資金による資本増強 

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 06年から07年にかけての世界的なカネ余りの中、パイオニアには投資ファンドが群がった。車載機器という収益事業を抱えるパイオニアは、赤字のプラズマを切り離せば急回復できる魅力的な投資対象。伊藤氏の引責辞任を受け06年に就任した須藤民彦・前社長の下には、国内外のファンド関係者が日参した。だが須藤氏はこう言ってすべて退けた。「カネならある。足りないのは事業シナジーなんだ」。シャープとの資本提携後も、プラズマと車載を両立させたい経営陣の考えは変わらず、パネル生産撤退などを決めながらも、高価格帯テレビへの特化で生き残りを目指した。

そしてプラズマの出血が止まらぬまま、昨秋の自動車不況に直面した。車載事業まで赤字転落することが確実になり、昨11月に須藤氏の後を継いだ小谷社長はようやくプラズマ完全撤退を決断。「車載が利益を生んでくれていた。そこに甘えがあった」と撤退発表会見で吐露した。プラズマ事業の失敗は、車載事業の利益を吹き飛ばしたばかりではない。約1700億円もの巨額の負債をパイオニアに残した。

パイオニアは1月ごろまで、JVC・ケンウッド、アルパイン、三菱電機に車載事業での合弁や開発提携を打診する一方、DJ機器のヤマハへの売却などを検討していた。だがその水面下の動きは、2月ごろぷっつり消える。この頃からメインバンクの東京三菱UFJ銀行に主導される形で、スキームが固まり始めた公的資金注入を活路に定めたのだ。

再生計画は元産業再生機構COOの冨山和彦氏らが描いた。5月に発表された、車載機器の共同開発相手であるホンダからの出資も、その計画の一環だ。「25億円という出資額はパイオニアの言い値」(ホンダ幹部)といい、資本増強そのものよりも“日本を代表するホンダの関係企業”という構図を強調し、公的出資にふさわしい企業のイメージを狙ったようだ。

不振企業ばかりが検討 政府がゾンビを延命か

政投銀関係者は「厳格に投資判断した結果、われわれが出資を断れば政投銀がパイオニアを潰した、と非難される事態にもなりかねない。出資するように外堀を埋められたようなものだ」と懸念する。

本来、この特例措置は、金融危機により一時的に悪化した企業を緊急避難的に支援する、という前提になっている。だがどういうわけか、申請が見込まれる企業の顔ぶれはメーカーにしろ、金融関係にしろ、金融危機以前から健全経営だったとは言いにくい企業ばかりだ。

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