盛況「1000円高速」の波紋、国土交通省の早すぎる翻心

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返済計画は破綻との声も 新規路線建設へ方針転換

しかし、06年3月に最初の債務返済計画が作られて以降、すでに9回も計画は変更されており、実績が当初計画どおりなのか、すでに検証は不可能になっている。さらに今回、料金値下げという、民営化時に想定もしていなかった事態も出てきた。08年11月には交通需要推計が見直され、それに基づく貸付料の大幅な下方修正も予想されている。「現状の交通需要推計でさえ、予測が増える要素をいっぱい盛り込んで膨らませている。45年償還はもう無理。計画はすでに破綻している」と民主党の馬淵澄夫・衆議院議員は指摘する。

さらに、国交省が「ない」と言明する新規路線建設への税金投入も、本格的に動き出そうとしている。

その大きな第一歩が、連休前の4月27日に急きょ開催された国土開発幹線自動車道建設会議(国幹会議)で踏み出された。ここで、関越道と東名高速道路をつなぐ東京外環など4路線、事業費総額約1・5兆円の新規路線の建設が決められたのだ。

料金収入だけでは債務を返済できないので、うち3路線では、料金収入と税金で建設する「合併施行方式」を採用。建設費の大半を税金で賄わないと採算が合わない不採算路線の建設に本格的に舵を切った。

ただ、こうした原則論の応酬とは別に、金融市場の関心は、債務がきちんと返済できるか、のただ一点に集中している。この点、今回の税金投入の決定は、債券投資家から見ると、「プラスに評価できる」(債券アナリスト)という。料金収入だけだと考えられていた債務償還の原資に、国の税金という強力なキャッシュフローが加わり、債務返済の確実性がより高まるからだ。

さらに、今秋までに行われる総選挙で民主党が勝利し、「民主党の政策である高速道路無料化となると、債券評価としてはより一層プラス」(同アナリスト)に働く。高速道路無料化という民主党案は、機構の債務を国が承継し60年で償還する計画だ。つまり、高速道路に絡む債券は、限りなく日本国債に近づくことになる。皮肉なことに、税金を投入しないという民営化の原則から遠ざかれば遠ざかるほど、市場はその安全性を高く評価することになる。高速道路各社が発足して4年。民営化の原則は早くも揺らぎ始めた。

(撮影:大澤 誠、梅谷秀司 =週刊東洋経済)

山田 徹也 東洋経済 記者

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やまだ てつや / Tetsuya Yamada

島根県出身。毎日新聞社長野支局を経て、東洋経済新報社入社。『金融ビジネス』『週刊東洋経済』各編集部などを経て、2019年1月から東洋経済オンライン編集部に所属。趣味はテニスとスキー、ミステリー、韓国映画、将棋。

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