「フルグラ」ブームが映す健康食志向の変化 カルビーのシリアルはなぜ売れているのか

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もともとフルグラは1991年に「フルーツグラノーラ」として登場。ただ、期待ほどは売れず社内における存在感は非常に薄く、2000年代に入っても鳴かず飛ばずの状態が続いたが、2009年に現CEO兼会長の松本晃氏がトップに就任後、ヨーグルトと混ぜるなど、これまでの牛乳だけでない食べ方を提案するなど発想の転換を図り、急激に売り上げ増につながった。

健康・和食ブームが追い風に

2015年には「フルグラ 黒豆きなこ味」という新商品を発表し、和食とのコラボレーションを提案。シリアル食品の新しいイメージ作りに成功している。つい最近、「フルグラ 黒豆きなこ味」を初めて食べてみたが、とても素朴な甘みで、朝から甘いものは食べられないという人でも食が進む味で、抹茶やあんこと相性のいい味だった。

さまざまな種類の食材を一気に摂れるのが、フルグラの魅力の一つ(撮影:今井 康一)

フルグラがヒットしている背景には、日本人の健康志向の高まりがありそうだ。麦やとうもろこし、ドライフルーツの入ったフルグラに、たっぷりの牛乳をかけて食べる。いかにも健康によさそうだ。フルグラのパッケージには食品の栄養成分がしっかりと表示されており、とても簡単にバランスのよい食事を摂ることができる食品である。

ただ、気になるのは、健康志向というのは、あらゆる商売にとって、さほど単純ではないという点である。日本人の健康に対する意識は、あまり簡単で便利なモノを信用しないクセがあるように感じている。「簡単に健康になれる」というたぐいの情報はたくさんあふれている。1つひとつは簡単でも、そうした情報をたくさん集めた結果、さまざまな情報に振り回されてしまうような部分がある。

健康情報番組で「この食品が体にいい!」と報じられると、放送翌日にはスーパーの棚からその商品が消える。メーカーは増産を図るが、増産体制ができた頃にはその食品のブームは終わっていたなんてことがよくある。

そうした特定の食品を食べれば健康になるという考え方がある一方で、特定の食品を食べると不健康になるという考え方も存在している。とある食事法では、玄米や穀物を始めとした「自然食」を体によい食事として提唱する一方、白米や砂糖と言った精製された食品や、加工食品。そして乳製品などは健康によくない食品として忌避する考え方をしている。

もちろん、本人が納得して行う分には何の問題もないのではあるが、こうした食事法を他人に勧めようようとするときに、忌避するべき食品が、いかに体に悪く、酷い食品であるかを強調してしまうのである。そうした本の中には「砂糖や牛乳は白い悪魔」などと、砂糖や牛乳を毒が何かであるかのように吹聴するものすら存在する。こうした人たちからは、シリアル食品というのは好まれていない。

このように、ある食品の心身への影響を過大に考え、その食品ばかりを摂取しようとしたり、また必要以上に忌避することを「フードファディズム」と呼ぶ。もちろんフードファディズムは自社の食品を売ろうとする食品会社があおる側面もあるが、一方で消費者自身が健康に対する正解を求めすぎるがためにフードファディズムに陥る側面もある。

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