新たな半導体再編劇、見えない再建シナリオ

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それでも統合を検討する背景には、各親会社の苦しい台所事情が透けて見える。これまでNECは「半導体は産業のコメ。NEC本体の技術とも深い関連がある」(矢野薫社長)と半導体事業をコアと位置づけてきた。NECエレとの親子上場を批判されながらも7割の出資比率にこだわり、ファンドによる買収提案もことごとく蹴ってきた。

しかし、当のNECエレからは「社長が本当にコアと考えているか疑問」という声も聞かれる。実際、矢野社長がNECエレ本社を訪れたのは、社長就任から2年以上経過した昨年の夏だった。最近になってNECエレ本社に足を運ぶ回数が増えたが「赤字幅が拡大し、危機感を覚えたのでは」(同関係者)。

NECでも09年3月期は2900億円の最終損失を見込み、無配に転落する。半導体だけでなく、主力のITシステム事業の大幅減益も足を引っ張る。巨額投資を必要とし、業績変動幅も大きい半導体について「コア」との考え方を改め、距離を置く決断をしても不思議ではない。

一方、日立も09年3月期は7000億円もの最終赤字を見込む。「半導体を遠ざける決断をしてルネサスを作った」(日立製作所の川村隆会長兼社長)。すでにルネサスを持ち分法適用にとどめており、コアの位置づけから外している。三菱電機は09年3月期に最終黒字を確保する見通しで、比較的余裕はある。だがすでに堅実な事業に特化しており、半導体に拘泥する必然性はないだろう。

「子どもだから放り出すわけにはいかない」。日立の川村会長兼社長はルネサスについてこう表現しながらも、「半導体は国家として必要な技術。いろいろな会社が協力して日本としてやっていくのが最後の形」と語る。日立ではルネサスへの公的資金活用も視野に入れており、支援には手段を選ばぬ構えだ。

各社とも業績急悪化にあって、赤字を垂れ流す半導体再建に多額の資金をつぎ込む余裕はない。互いに及び腰の中、誰が生き残りのシナリオを描くのか。統合話が浮上してもなお、半導体再編の行方は五里霧中のままだ。

(麻田真衣、山田雄大 撮影:吉野純治 =週刊東洋経済)

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