浜田宏一氏「金融緩和を止めてはならない」 止めてしまえば元の木阿弥になってしまう

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たとえば、ハーバード大学のデール・W・ジョルゲンソン教授などは日本の農業やエネルギー、小売り、運輸などの業種での生産性の低さなどを指摘、問題が多いとしている。

また、日本の経済政策は中小企業を中心にいかに救うかに腐心しているが、いかに生産性の低い企業を退出させるかが大事だと説く。いわば「3本の矢」や「新3本の矢」による成長戦略も重要だが、「(問題があるところに)1000本のはりやおきゅうをほどこして丹念に治していくというイメージだ。

しかも、ジョルゲンソン教授は単に「構造改革をせよ」と言うだけでなく、構造改革をする際の為替レートなど競争力の条件なども示しており、非常に刺激を受けた。

金融緩和をやめてしまったら、「元の木阿弥」

浜田宏一(はまだ こういち)/1936年生まれ。イェール大学経済学部タンテックス教授。国際金融論の分野で世界的な業績がある。内閣府経済社会総合研究所所長、理論・計量経済学会(現・日本経済学会)会長、法と経済学会会長など、政府や学界の要職を歴任。安倍内閣の内閣官房参与を務めている

――金融政策が、アベノミクスの初期ほど効かないとすると、日銀は現在のような金融緩和策を変更すべきでしょうか。しかもこのまま国債を買い続けていると、日銀が買おうとしても国債の売り手がいない「札割れ」の状況が遠からずやってきます。

私がこうして構造改革の話をすると、かねてから金融緩和を重視した経済政策に異論を唱えている人々は「浜田教授はだいぶ大人になってきたようだ」と喜び、一方で金融緩和論者は「弱気になったのか」と怒り出す人もいるようだ。

だが、私が言いたいのは、「金融緩和はこれからも必要」ということだ。もし、今金融緩和をやめてしまったら、日本経済は再び需要不足に陥り、失業が増えてしまう。これでは日銀がせっかく緩和をしたにもかかわらず、途中でやめてしまった時代に逆戻り。元の木阿弥になってしまう。

現在は残念だが、まだ労働者の賃金が上昇しているとは言えない状態だ。これは本当に労働力がひっ迫していないか、あるいは正規労働者と非正規労働者の二重構造問題などが考えられる。だから積極的に賃金を上げ、生産性の低い企業に退出を促すのが官邸の考え方。私は、賃金を先にあげてしまうと企業のコスト増となりかねないため、一時的に実質賃金が下がっても先に物価を上げて企業の有利にしておくほうが雇用が継続し、需要も増えると考えるが、そこはいろいろな意見がある。

日銀が買う国債が不足する「札割れ」の状況などは技術的な問題で、日銀が打つ手がないわけではなく、いろいろな手段がある。たとえば外債を買ってもいい。

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