クレハの”負けん気”経営、視界不良の化学業界で異彩放つ
化学業界が呻吟している。エチレン生産能力と出荷量見通しを比較した国内の需給ギャップは40%超(経済産業省推計)。エチレンプラントは、鉄鋼業界における高炉に等しい石油化学コンビナートの心臓部。だが中国・中東で大幅な増設を控える今、エチレン設備の過剰感は増す一方。過剰なプラントの統廃合は、今や切迫した課題だ。
「化学業界は鉄鋼業界と比べ、海外需要の取り込みと設備・雇用・負債の過剰という点で劣位」と日本銀行調査統計局の伊藤智氏は指摘する。直近4年の業況判断DI(企業の景況感を表す指数)で、化学業界は鉄鋼業界から最大40%もの差をつけられた。背景にあるのは「合理化努力の差」(伊藤氏)。解決に断固たる一歩を踏み出せない化学業界に、明るい道筋は到底描けない。
コンビナートに属さず内陸の地で独立独歩
そんな沈滞ムードの中で、異彩を放つ会社がある。いち早く汎用バルク品に見切りをつけ、コツコツと独自技術を育んできたクレハだ。2003年に塩化ビニル樹脂から撤退、以後機能性を付与した製品のみに特化した。JSRや日産化学工業など他の機能性化学メーカーと共に、総合化学メーカーと比べ高い収益性を獲得している。
「技術革新が生まれる土壌は、ハプニングとセレンディピティ(思いがけない発見)。WBCでイチローが『神が下りてきた』というのに似ている」。合成樹脂の製造技術革新に貢献した三井化学の柏典夫シニアフェローが振り返る。ただし、「そのためには、いつもと同じ視点で見ていてはダメ」と言う。
東京から北へ180キロメートル。クレハは福島県いわき市の工場を生産拠点としている。同工場は最寄りの小名浜港から15キロメートル内陸にあり、汎用化学品では原料搬入から製品搬出まで重いハンデを背負う。石油化学コンビナートには属さず、設立当初からこの不利な地を根城に、独立独歩で歩んできた。「集団から隔絶された視点から生まれたいくつものセレンディピティが、クレハだけのオンリーワン製品を生み出してきた」(塩尻泰規・生産技術部長)。
そのオンリーワン製品は、塩素の高度利用と原油の熱分解プロセス活用が起点となっている。キーワードは副生物を余すことなく使う、“もったいない精神”だ。