クレハの”負けん気”経営、視界不良の化学業界で異彩放つ

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 クレハ独自の基盤技術は、さらに原油の熱分解にも見られる。原油の熱分解とは、原油を高温条件下で直接分解して、主にプラスチック向けの原料となるエチレンやプロピレンなど、オレフィン系炭化水素に変化させるプロセス。この原油の熱分解への挑戦、実は「せいぜい資本金500億円の会社にとっては、国家プロジェクトのようなもの」(岩崎社長)だったという。

もともと原油の熱分解に取り組んだ背景には、立地の不利から来る輸送コスト克服とともに、60年代のナフサ急騰に対し、安価な原油を利用することで価格メリットを得る狙いがあった。しかし、石油ショックでその価格優位は剥落、さらに当時の通産省が石油化学製品52品目の価格を凍結。原油熱分解で目指した優位性は完全に失われてしまった。

「物語の始まりは、エチレンセンターに属さなかったことにある」。岩崎社長はそう語る。乾坤一擲の熱分解技術への挑戦は頓挫した。だがクレハは、大手とは別の方法に再起を懸けるしかなかった。原油熱分解プロセスから、その残渣として副生されるタールやピッチ。再び“もったいないDNA”がうずきだした。

ここから始まったのが、炭素繊維事業だ。炭素繊維の用途は成形断熱材やアスベスト代替材料などがある。特に半導体用シリコン単結晶引き揚げ炉や、太陽電池用基板製造炉向けの成形断熱材用途は、現在の経済危機においても順調そのもの。3月末には上海新工場を竣工させ、10月の追加増強と既存工場の設備移設が完了する今年12月には、計画前倒しで従来比3倍の生産能力になる。世界シェアは50%を誇る。


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