日本人はビジネスでの「音」の力を知らない 「音の参謀」が明かす耳から顧客を掴む方法

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ブームモーメントが起きるのは、企業や一般の人々が音で聴き手の五感を刺激し、記憶を呼び起こし、ストーリー全体を効率的に伝え、感情を引き出すことができた瞬間だ。多くの場合、こうした瞬間を生み出すのは、私たちがふだん無意識で聞いている音だ。そのことに気づけば、音の行動誘導効果の大きさや、音がいかに日常業務の簡素化に役立っているかを知って驚くだろう。

ブームモーメントを経験すると、何かにつけて、「ああ、なるほどそうだったのか」と納得することが多くなる。企業が音を効果的に利用してブームモーメントを起こし、業績を伸ばす余地はまだまだある。しかし、有能な経営者でもそのチャンスを逃しているケースは多い。 

街にあふれるブームモーメント

実は多くの人が、ブームモーメントを日々の生活で体験している。例えば、ニューヨークの地下鉄。階段を下りる途中で下降調のベルの音が聞こえたら、電車が発車寸前であることがわかる。ベルはドアが閉まりかけたときに鳴るからだ。この発車ベルはもともと、乗客がドアに挟まれないようにするための警告音だった。一種のテクニックだ。

外国の鉄道輸送システムでは、ニューヨークの地下鉄とは比べものにならないほど音が効果的に用いられている。東京では駅によって音色が異なる発車メロディーが鳴るので、いま自分がどこにいるのか、案内表示を見なくてもわかる場合がある。ロシアの地下鉄では、環状線の時計回りの電車には男性のアナウンス、時計と反対回りの電車には女性のアナウンスが用いられている。声を聞けば、乗り間違いがないことがわかって安心する。

私はこのような役立つ情報を明確に与えてくれる音を、「機能的サウンド」と呼んでいる。サウンドスケーピングの概念ではもちろん最優先すべき音だ。私たちは能動的にこうした音を聞き取ろうとする。なぜなら、機能的サウンドには、わずか数秒という短い時間にもかかわらず、多くの重要な情報が詰まっているからだ。

すべてがうまくかみ合うと「音」が消える

音があふれすぎている現代では、逆に音をうまくコントロールすることが大事だ。音を利用した現代のブランド戦略においても、静寂をうまく利用することが不可欠だとされる。満足のいく顧客体験を提供するには、音と静寂をどううまく組み合わせるかがポイントだ。

ディズニーのテーマパークは、音と静寂のバランスが絶妙に保たれている。複雑に配置されたスピーカーから流れる音楽と計算しつくされた環境音。駐車場で車を降りて、こうした音を耳にした瞬間からワクワクする。

「音がその場所の雰囲気をつくり出すのです」とジョー・へリントンは言う。彼はディズニーテーマパークの数々のアトラクションの企画や設計、製作を担う、ウォルト・ディズニー・イマジニアリング社の首席メディア・デザイナーだ。この道33年の彼は言う。「音を聞いた瞬間、ゲストは期待に胸を膨らませるのです。これはもちろん音だけがもたらす効果ではありません。ゲストが目にする色彩やコスチューム。そういったものすべてが相乗効果を生み出すのです」。

いろんな要素がうまくかみ合うと、驚くべきことが起こる。音が消えるのだ。つまり、音だけが印象に残るのではなく、感動的な体験を構成する要素の1つとして、音のインパクトに気づくのである。

(翻訳:福山 良広)

ジョエル・ベッカーマン 作曲家、テレビプロデューサー

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作曲家、テレビプロデューサー。音楽・広告業界で数々の受賞歴を誇る。米誌ディテールズが「現代音楽の巨匠フィリップ・グラスと敏腕広告クリエーターのド ン・ドレイパーに匹敵する才能の持ち主」と絶賛。サウンド・マーケティング戦略を専門とするマンメイド・ミュージック社の創立者。米誌ファースト・カンパ ニーが選ぶ「世界で最もクリエーティブなビジネスパーソン トップ100」の1人。またマンメイド・ミュージック社は同誌によって音楽業界における「最も革新的な企業」の1つに選ばれている。これまで作曲したテレ ビ番組の主題歌は50曲以上にのぼる。米国作曲家作詞家出版者協会主催の、最多演奏曲賞(主題歌部門)を9年連続受賞。ディズニー、AT&T、サ ウスウエスト航空などの大手企業をクライアントに持ち、サウンド・マーケティング戦略を支援。ジョン・レジェンド、ウィル・アイ・アム、モービー、オー ケー・ゴー、モーガン・フリーマン、そして映画音楽の巨匠ジョン・ウィリアムズとの共作もある。

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タイラー・グレイ

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世界最大のPRコンサルティング会社エデルマン、ニューヨーク支店編集ディレクター。米誌ファースト・カンパニーの元編集ディレクター。

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