「タワマン街」武蔵小杉が住みやすい真の理由 新旧住民が交わるプラットフォームがカギ

拡大
縮小
多いときで月に40回以上も更新されるブログ「武蔵小杉ライフ」。近隣の店舗の情報もきちんと取材して書かれている

エリマネとほぼ同じタイミングで生まれたのが武蔵小杉ライフとブログである。主催者のはつしも氏は再開発以前から武蔵小杉に在住。「再開発で街が大きく変わるというのに、事業者ごとの個別の情報だけしか発信されておらず、全体が見えてこないと感じたのがきっかけです」とはつしも氏。

たとえば、再開発の公示は誰も見ないようなところに貼ってあり、住民に伝わっているとは疑わしかった。「昔から住んでいてもこの街のことを知らない人も多く、『しょせん小杉とか、しょせん川崎』といった投げやりな言葉も聞く。もっと街に自信と誇りを持ってもらいたい、そんな意図もありました」(はつしも氏)。

私が武蔵小杉ライフで最初に注目したのは地図、一覧表、写真で分かりやすく整理された再開発情報。開発計画や公的文書の閲覧も可能だ。情報は適宜更新されており、今であれば2016年度、2017年度竣工予定の建物の詳細も分かる。

他サイトにもよくある地域情報も、きちんときちんと一軒ずつ取材して書かれていることが良くわかる。各スーパーの駐輪場の使い勝手から、スープが売り切れ次第閉店するラーメン屋がおおよそ何時に閉まるかまで、実際に見て聞いて体験しなければわからないような情報が多いのである。エリア内の寺社もすべて写真入りで、由来などが細かく解説されている。これが住民に支持されないわけはない。

その後、武蔵小杉を取り上げるいろいろなブログが登場したが、今でも地元の人は「武蔵小杉ブログ」をナンバーワンサイトと評する。1日2万人のユニークユーザーがいるといえば、おわかりいただけるだろうか。ブログで書かれた地元イベントの改善策が翌年、取り入れられるような状況もあり、地域メディアとして全幅の信頼を得ているのである。はつしも氏には本業があることを考えると、複数の仲間と作っているとはいえ、その熱意、地元愛には頭が下がる。

「入りやすく、抜けやすい」ことが大事

再開発時に生まれたエリマネとメディアの存在が以降の武蔵小杉での活動を加速することになる。その例の一つが、こすぎの大学だ。主催する岡本氏が武蔵小杉に住み始めたのは2002年。オフィスが武蔵小杉に移転、会社と家を自転車で往復するだけの生活に疑問を抱くようになったのは2005年。きっかけは娘の誕生だった。「子どもにとっての故郷である武蔵小杉について何も知らないということが気になりだし、2012年に思い切ってエリマネが主催していた読書会に参加してみました。地元に友だちが欲しくもあったのです」(岡本氏)。

そこで快く受け入れてもらった経験から自分でも、毎月できるような小さな勉強会を始めようと思うに至る。「ちょうど仕事でも2010年からソーシャルデザインを手掛けており、企業同士をつなぐような活動をしてもいました。その延長として武蔵小杉のことを知る活動をやろうと考えたのです」と岡本さんは話す。

ただ聞くだけの授業ではなく、ワークショップを行うなど参加型の授業が中心のこすぎの大学

2013年9月に始まったこすぎの大学は月一で開催、平均で30~40人、多い時には100人ほどの人が集まる。運営に携わっているのは6人で、武蔵小杉在住、在勤は共通しているものの、在住期間など属性はバラバラ。その分、いろいろな人の気持ちが分かるため、参加者も30代~60代を中心に幅広い男女になっているそうだ。

地元で働く人が講師を勤める授業は「遺言書の書き方」から「医療情報」、「地元メディアを作るとしたら」と幅広い。一つのテーマに絞ると同じ人ばかりが集まり抜けにくくなるが、テーマが多様であれば入りやすく、抜けやすい状態が作れるからだ。

次ページコワーキングスペースYou+の誕生
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT