期待高まるメタンハイドレート、環境・経済両面で慎重な技術開発を

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有効利用が温暖化を防ぐ

問題は差し当たって予算だろう。産業界の期待を背景に、フェーズ2初年度の09年度予算は45億円と決まった。フェーズ1の年平均予算と比べ1割強の増額だ。だが、単年度会計の下では総投資額が見通せない。フェーズ2の海洋連続産出試験では、1回当たり100億~200億円必要との声もあり、継続的な予算計上が不透明な状況は、開発のモラールの低下を招く。

またフェーズ1では、メタンハイドレートコンソーシアムには270人の研究スタッフがいたが、企業の事情で引き揚げられてしまうと補充がきかない。新しい分野のうえ、過去十数年の間に多くの大学で資源関係の学科を廃止したからだ。企業の側にも腰を据えた姿勢が必要だ。さらに2~3年かかるテーマでも、国費研究だけに毎年予算申請しなければならず、書類作成に忙殺されて研究に集中できないとの話も聞く。長期テーマであることは自明であり、経済、環境での期待度が高い以上、進捗報告だけで済むようにするなど簡略化の方法が考慮されてもいい。

一方で、おろそかにされてはいけないのが環境の問題だ。メタンガスはCO2の20倍以上も地球温暖化を進行させる。だが、きちんとした管理の下に環境に配慮しながらであれば、ハイドレートのまま放置して自然崩壊によるメタン放出を招くよりは、はるかに環境にいいといえる。メタンガスは燃焼すれば石油に比べてCO2排出量は3割程度少なく、Soxは出ない。

問題はきちんと管理できるかどうかだ。ハイドレート層を分解利用することによって、それまで氷状の固体で安定していた砂地の海底地層がどう変わるのか。またハイドレート層の下に、存在確率10%とはいえフリーガスが存在する。量が少なければ海水で分解され溶け込み、海面上にメタンガスが浮き上がってくるとは考えにくいものの、大量にあった場合、その上のハイドレート層が移動したらどうなるのか。「大深海底は未解明の部分も多く、現時点では予測がつかないことも多い」と関係者は言う。

にもかかわらず、現時点で大規模な海底地質調査は予算に計上されていない。アメリカではエネルギー省を中心にベーリング海などで、大規模なハイドレート層の崩落による地滑りの研究を行っているという。ノルウェー沖の大規模な滑りで通常の数倍の高濃度のフリーガスが噴出した痕跡が発見されたという報告もある。日本でも下北沖で確認されている。こういった事例を軽視して経済優先の開発を行っては拙速のそしりは免れまい。水平エリアで採取すれば地滑りは起こらないという意見もあるが、何があるかわからない深海底で人工的に地層を変形させることによる環境影響調査は、現行以上に範囲を広げて行うべきだろう。

太陽光発電や風力発電などグリーンエネルギー利用率が需要全体の2%にも満たない日本にとって、ある程度受け入れのインフラが整っている天然ガス=メタンハイドレートが、エネルギー安全保障のうえで一定の役割を持つのは間違いない。だからこそ「海底環境変化の問題を無視して開発を進めるのは危険だ。慎重を期して進めるべき」という国立環境研究所の内田昌男氏の言葉を重く受け止めたい。

(小長洋子 =週刊東洋経済)

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