事実!「声をかけやすい人」は仕事ができる ANAの気づかいは、こんなにも合理的
パイロットやCAもそうですが、山内が長年在籍した整備部門もまた、複数の整備士が連携をとりあって仕事をします。
「整備の目的である安全運航を達成するためには、仲間に伝えたいことが伝わらなければなりません。そのベースには人間関係があると思うのです。相手の状況を考えた上で伝えないと、相手にきちんと伝わらない。だから、なんでも話し合えるような人間関係を積極的につくっていく。気づかいの大きな役割は、そこにあると思います」
チームで取り組む仕事を確実に前に進めるためのベースとなるのは人間関係で、人間関係は気づかいによって構築されていく。そのように考えているわけです。
組織というのは、放っておくと「トップダウン」になるのが常です。上層部が組織を管理するうえで都合がよいから、と思われがちですが、実は部下の側も、「これをやれ」と言われるほうが、自分で考えて行動しなくてよいため、楽なのです。上から言われたことをやっているだけであれば、当然、責任をとらなくてもよくなります。
しかし、ANAにとっての至上命題である「安全」を考えたときに、これはとても危険な状態なのです。現場(部下)からの情報が上がってこないと、間違った判断をしてしまう可能性があるからです。
アサーションという言葉は、最近外資系企業などでも研修を実施している会社が多く、一般的になってきました。一方で、「立場にかかわらず何を言ってもいい」と誤って意味を捉えてしまい、部下から上司への単なるわがままを正当化してしまう……という場面もあるようです。これは、ANAが考える気づかいの文化とはまったく異なるものです。
アサーションの本来の意味は「健全な自己主張」です。「下から上」はもちろんのこと、「上から下」にも遠慮せず、お互いの意見を伝え合うことが重要です。
歩き方と視線で「声をかけやすい人」になれる
たとえば機内で、
「お水を持ってきてほしい」
「機内が少し暑い」……
このような気持ちがあったとしても、9割のお客様はそれを口に出して伝えようとはしません。「忙しそうにしているから、声をかけなくてもいいか」と、逆にお客様が気づかいをしている場合さえあります。
20年以上客室センターに在籍し、現在もチーフパーサーとして乗務している、ANAビジネスソリューション接遇マナー講師の林靖子は言います。
「私はお客様に『察してよ』と思われた時点で"負け"だと思います。目が合ってから、ご要望を伺うのも遅いかもしれません。そう思われる前に、こちらから『いかがなさいましたか』と尋ねるぐらいに、ゆっくり、じっくりと周囲を観察していることが大切です」