野口聡一「宇宙空間でもメンタル安定させる極意」 寝られるときに眠ることが何よりも大事のワケ
師匠と呼べる3人の存在
わたしは3度の宇宙飛行を経験するなかで、「どうしてわたしは宇宙に行くのか」といつも自分に問いかけていた。この一種の哲学的ともいえるテーマを考えるようになった背景には、師匠と呼べる3人の存在がある。
ひとり目はジャーナリストの故・立花隆さん。高校生だったわたしを宇宙飛行士の世界にいざなってくれた『宇宙からの帰還』(1983年)をはじめ、立花さんは一貫して宇宙飛行士の強烈な宇宙体験が人間の内面世界にどういう影響を与えるかを追究していた。実際にわたしが宇宙から戻ってから直接お話しする機会に何度も恵まれたが、「生と死」の境界線を見極めようとする真摯な姿勢に感銘を受けたのを覚えている。
もうひとりは、先輩の毛利衛宇宙飛行士。地球環境や生命のあり方を深く考察し、『宇宙から学ぶ――ユニバソロジのすすめ』(2011年)という一冊を著している。
3人目は、公益財団法人「国際高等研究所」(京都府木津川市)フェローだった木下冨雄京都大学名誉教授。これからお話しする「宇宙での心身の安定」について研究を指導してくれた恩師である。
わたしが1回目の宇宙飛行(2005年)を終えたころから、JAXAでは国際高等研究所と共同で、哲学や心理学、宗教学といった人文・社会科学の視点を取り入れて「人間と宇宙」をテーマに研究を行っていたことがある。この中で、「いかにして人間は宇宙で安定するのか」という研究課題が持ち上がった。
地上では心身の安定は重力の影響を大きく受ける。座禅のポーズを思い浮かべるといい。その姿はおよそ三角形で、足を組んでできた底辺があり、その底辺の中心点からまっすぐ上に伸びた位置に頭がある。
つまり、頭からお尻の辺りまで貫く体の軸が、足を組んでいる地面に対してまっすぐ立っていて、重力ベクトルと一致している。こうなると体は安定した状態になり、それに伴って心も安心感を覚え、安定につながると考えられる。
では、重力ベクトルが効かない宇宙の無重力空間ではどうか。わたしは2度目の宇宙飛面に落下したものと思い、つい頭を手で覆ってしまったのだ。
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