インドIT産業はまだ伸びる、この時期こそチャンス--スブラマニアン・ラマドライ タタ・コンサルタンシー・サービシズ(TCS)CEO兼社長 Now is the time of opportunity. Indian IT will continue to grow. --Mr. Subramanian Ramadorai, Tata Consultancy Services (TCS) CEO & MD

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--今年1月に同業4位のサティヤム・コンピュータ・サービスの粉飾決算が明るみに出て、創業者が逮捕されました。3位のウィプロ・テクノロジーズも株の不正譲渡で世界銀行から取引停止の処分を受けました。こうした度重なる事件は、インドのIT業界全体の信用を傷つけたのではないですか。

それはまったくない。こうした事件は限られた会社で起こったものであり、インドのIT業界全体の問題ではない。TCSの顧客も、TCSとは関係のない事件であることを十分にわかってくれている。だが社内では、あらためてコンプライアンスポリシーを確認するなど、コミュニケーションを取った。

TCSでは、社員による不正行為を防ぐことに力を入れてきた。私たちの価値観は140年続くタタ・グループの歴史に基づいており、強いコーポレートガバナンスが機能していることを強調したい。新入社員からシニアエグゼクティブ、社外取締役に至るまでの全員が、厳しいタタ・グループの行動規範に同意し、署名もしている。グループ企業には、それぞれCEO直属の「倫理カウンセラー(ethic counselor)」を配置し、それを統括する「最高倫理責任者(principal ethic officer)」はタタ・グループの会長直属だ。情報セキュリティ、人材採用、購買など、社内の各業務についてコンプライアンスポリシーが定められている。タタ・グループには独自の強固なコンプライアンス体制が確立されているといえる。

--競合他社のつまずきはTCSのチャンスになるとも考えられます。

他社の顧客にこちらから進んでアプローチすることはない。顧客が私たちとビジネスをしたいと思ってくれて、かつお互いの条件が折り合えば取引をする。それだけだ。

今の経済環境は確かに厳しいが、ビジネスチャンスはこういうときにこそ転がっていると感じている。多くの企業はコスト削減を求めており、TCSはこうした企業に対して、戦略レベルで中期的な観点からアドバイスをすることができる。その企業のオペレーション、業界でのポジション、強み、弱みなどすべてを把握したうえで、ITシステムにムダはないか、インフラにムダはないかを分析する。場合によっては、海外に拠点を移したり、世界規模で開発を進めたほうが効率的という結果が出ることもある。

つまり、一つのコスト削減プロジェクトにとどまらず、経営の観点から見ることで業務全体、会社全体の効率を高められるのが私たちの得意とするところ。数百万ドル、数億ドルレベルのコスト削減を達成することもある。固定フィーに加え、コスト削減に応じた成果連動型のフィーをもらう契約の形態もある。

--大手4社がしのぎを削るインドのIT業界ですが、今後はさらに再編が進みますか。

再編は進むだろうが、一晩で急に起こるということはないと思う。私たちは昨年12月31日にシティグループのバックオフィス子会社を買収し、従業員数が1万2500人も増えたばかりだが、こういうことは日常的に起こっている。

--今年10月でCEOを退任することを表明しています。

タタ・グループの決まり事で65歳になったら引退しなければならない。だが、私は人生の大半をタタで過ごしてきたわけだから、今後もいろいろな形でかかわり続けていくつもりだ。私の元上司に言われた言葉がある。「ハードワークで死ぬ人はいないが、ハードリーワーク(ほとんど仕事をしない)で死ぬ人はいる」。人間は常に忙しくしていたいものなのだ。

Subramanian Ramadorai
1972年、タタ・コンサルタンシー・サービシズ入社。96年CEOに就任、2004年から社長を兼務。中国杭州市、青島市のITアドバイザーを務めた経験もある。

(堀越千代 撮影:谷川真紀子 =週刊東洋経済)
※次ページに英訳

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