インドIT産業はまだ伸びる、この時期こそチャンス--スブラマニアン・ラマドライ タタ・コンサルタンシー・サービシズ(TCS)CEO兼社長 Now is the time of opportunity. Indian IT will continue to grow. --Mr. Subramanian Ramadorai, Tata Consultancy Services (TCS) CEO & MD
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インドの経済成長を牽引してきたIT業界が、世界的な経済危機のあおりで減速を余儀なくされている。欧米を中心とした世界140カ国に顧客を持つ最大手のタタ・コンサルタンシー・サービシズ(TCS)も例外ではない。2008年3月期の売上高は前期比33%増の57億ドルを記録したが、この10~12月期には前年同期比横ばいへ急ブレーキ。減益傾向が続く。
厳しい局面をどう乗り越えるのか。1996年から12年にわたりCEO(最高経営責任者)を務めるラマドライ氏に聞いた。
--世界的な経済危機の影響がインドのIT業界にも大きな影響を与えています。
ITは今でも成長を続けている数少ない産業の一つだ。ただ、こうした経済状況で市場が混乱しているので、需要が落ち込むのは仕方がない。08年4~12月期の決算については、為替相場が激しく変動したことによる影響も大きかった。ただ営業利益ベースでは好調。キャッシュフローも悪化していない。
一部業界からの受注が急減しているのは事実。特に厳しかったのは金融、自動車関係だ。この2業種は非常に厳しい。通信業界も、カナダの通信大手ノーテル・ネットワークスが破産したのをみてもわかるように、かなり厳しい。世界的な大変動が起きており、これがいつ、どのように回復するのか誰にもわからない。日本も例外ではなく厳しい状況にある。売掛金の回収に苦労するほどではないが、銀行、自動車関係の顧客は、やはり需要が落ち込んでいる。
--厳しい局面を迎えた今、どのような努力をしていますか。
業務の効率を上げることが重要だと考えている。まず、すべての業務を見直してムダを排除している。旅費のムダ、通信費のムダ、メンテナンス費用のムダ……たくさんムダがある。出張に行く代わりにビデオ会議を増やしているし、出張をする場合にもこれまで以上に安くチケットを購入できるよう航空会社と交渉した。設備投資も、不要不急の案件に関しては先延ばしにするなど、すべてを見直している。売掛金回収の管理も一層厳しく行うようになった。契約どおり遅延なく回収するよう、四半期ごとに計画を立てチェックするようにしている。
また、こうした時期こそ人材活用が重要になる。適材適所はできているか、必要なスキルを社員の一人ひとりが身につけているか、ということをあらためて見直している。必要なスキルというのは、今日のニーズに適しているだけでなく、明日のニーズ、つまり、今後積極的にビジネスを展開する産業、地域に向けてきちんとトレーニングができているかという基準で判断している。
--これまでは欧米中心に顧客を拡大してきました。そこが厳しくなっている今、新興市場を強化するべきですね。
そのとおり。南米、インド、そして中国、タイ、オーストラリアなどアジア太平洋地域など、成長が見込まれる地域だ。もちろん、だからといって成熟市場を軽視するというわけではない。欧米には長く取引してきた重要な顧客がいる。今の売り上げ構成は、米国が50%、英国を含む欧州が24~25%、インドが11%で、残りが南米、アジア太平洋、中東、アフリカ。この比率が短期間で大きく変わるとは思わないが、インドやアジア太平洋の比率がそれぞれ数%ずつは伸びるとみている。
--インド国内は、今後も需要拡大が見込めますか。
インドも金融危機の影響は受けている。しかし、その影響は他国と比べて非常に軽いとみている。インド・ソフトウエア・サービス協会(NASSCOM)の予測によると、09年もインド国内のIT市場は20%程度までは伸びるとされている。
私たちは、インドのIT企業として唯一、インド国内にも十分焦点を当ててビジネスを行ってきた。これまでも、インド政府の徴税に関するシステムや、株式市場のシステムなど、重要なプロジェクトを多数受注している。01年に買収したCMCという会社も、国営企業としてインド国内のITを手掛けてきた会社だ。インド国内のIT市場は、私たちが作り上げ、育ててきたと自負している。それが今になって突然、ほかのインド企業や多国籍企業が、成長市場として目を向けるようになったというわけだ。
振り返れば、これまでもTCSが初めてやったことを他社がフォローするということが度々あった。私たちが初めて海外拠点を置いたのは74年だったが、これも他社に先駆けたことだった。