『なにを食べたらいいの?』の著者、安部司氏・食品ジャーナリストに聞く

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『なにを食べたらいいの?』の著者、安部司氏・食品ジャーナリストに聞く

3年前に、「みんな大好き食品添加物」を副題にして、60万部に迫るベストセラーとなった『食品の裏側』を書いた著者が、久方ぶりに著作を刊行した。ソフトな語り口ながら事実を積み重ね、添加物を入り口にして日本の食のあり方にあらためて警鐘を鳴らしている。

--デビュー作は社会に大きな衝撃を与えました。「みんな大好き食品添加物」の状況はさほど変わっていないように見えます。

前作を書いてから3年間、いろいろな人と出会うことになり、いただいた名刺は6000枚近くになった。その中で生の声を聞いた。講演も、教育委員会、消費生活センター、JA、生産者などに広がった。食育のアンケート結果などを見ると、食品添加物についてみなさんよくわかっており、回答者の7割くらいが問題があると答える。ただ意識は高いけど行動力は低い。

--簡単、便利、きれいで安くなるなどの添加物のメリットが優先されるということですか。

添加物に対する判断は毒性にとらわれすぎてはダメ。わかっていないことが多い。ネズミに与えたら流産したといっても、詰めた議論はしにくい。その一方で、安息香酸ナトリウム(保存料)とビタミンCが一つの食品の中で反応して、ベンゼンという猛毒が検出された事例もあった。

たしかに添加物にはメリットとデメリットがある。だが、消費者はデメリットのほうは、なぜか感覚的に処理してしまう。メリットのほうが大きいから、ついついそうなる。ちょっと油断すれば、簡単に過剰な油を塩分を、そして500種類からの添加物をとることになってしまう。

あえて被害者という言い方をすれば、一番の被害者は食べ物を選べない子どもたちだ。親たちはわかっているという言い方をする。こういう加工食品を食べてはいけない、外食もダメだと。だけれど、なぜか止められない。それで時は過ぎ、子どもたちは大量の糖分、油、塩分、さらに添加物をとらされている。

--トータルに考えよ、とも言ってますね。

添加物は食品関係でいま問題になっていることの最大公約数としか思っていない。添加物問題に加えて、食品加工、輸入食品、廃棄などなど。これらの陰にすべて添加物ありきだ。添加物が体によいか悪いかのレベルで判断するだけではすまされなくなっている。

一例を挙げれば、ファストフードは添加物がないと商品自体ができない。ただ、ファストフードがもたらす問題は、カロリー過多の栄養失調だけではない。排出する石油製品のゴミの量はすごい。コンビニの廃棄する弁当についても、エネルギーロス、環境負担についてきちんと考えないといけない。

ただし、こういうことを言うと、皆さん「知っている」と言う。では、本当にそれを自分の食卓レベルで、あるいは台所レベルで考えたことがあるかといえば、そう多くはない。たとえばスーパーで小口野菜をトレイにのせて売っているが、ほんとうに必要なものなのか。価値観の問題にさえなる。消費者は便利さも安さも求め、かつ化学物質は安全であってほしいといっても、それはありえない。二者択一のはず。どちらをとるかだ。

--では、本のタイトルではないですが、何を食べればいいのでしょうか。

講演などで質問を受けると五つのうち三つは、では安部さんはなにを食べているのか、あるいは自分たちは何を食べればいいのかということだ。

それは、安全性からいって、日本の伝統食品、継承食品しかない。3世代を経ているものを絶対安全とするならば、人間では100年経なければならない。それなら伝統食品。いわば人体実験も終わっているし、自然に育まれて生み出された伝統食品は、栄養的にも理にかなっている。

ただ、和食というものは生産性が悪い。一口ずつハシでもっていく。なぜ作法がいるのか。実用性からすればさじでがばっととればいい。しかし、それでは食料補給。まどろっこしく非生産的であっても、そこに日本の文化があり、しつけもある。ものを大事にする精神もある。

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