欧米は難民が増える「根本原因」を理解せよ 「無関心のグローバル化」が招く新興国の悲劇

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長期的な視点の欠如は、EUの対応の効果を損なうだけでなく、むしろ逆効果だ。移民が増加する要因に対応する枠組みがないため、政治家は国内市場に関心を向けるだけにとどまり、政治的、経済的に損害をもたらす可能性が国外に存在することをほとんど考慮していない。

EUの共同農業政策や米国の農業助成金のような数十億ドル規模のプログラムに代表される保護貿易主義は、新興国を犠牲にして国内の生産者を支援するものだ。こうした不公平な取引慣行は南米やアフリカ、アジアの農業従事者の収入と生活水準に深刻な影響を及ぼす。彼らは、保護された裕福なライバルに対抗することは不可能だ。

つい最近、米国をはじめとする先進国が採用した金融政策は、新興市場の通貨に大打撃をもたらした。米連邦準備制度理事会(FRB)が2013年に実施した予想を超える量的緩和縮小と利上げの見通しは、かんしゃくを起こしたかのように、発展途上国からの著しい資金流出を引き起こした。

国際金融協会(IIF)によると、2015年に新興市場から流出した資金は約5480億ドルと、1988年以来で最大だった。このため、必要性の高いインフラや生産設備への投資に利用出来る資本の額が急激に減少した。これにより、世界の人口の80%以上が暮らす発展途上国全体の成長が鈍化した。

「無関心のグローバル化」

独善的な政策決定は教皇フランシスコが「無関心のグローバル化」と評した考え方に染まりつつある。国内政策はますます自国の利益で評価されるようになり、海外への社会的、経済的、政治的影響はほとんど考慮されない。グローバル化の理想は、国境を超えた相互の結びつきを強調してきたが、「全ての国が自国のために」という枠組みに置き換わりつつある。

欧州の移民危機を永続的に解決するには、先進国の政策が移民の出身国の多くで起きている経済不安や政治的混乱などに及ぼす影響を勘案する必要がある。政治家は、自らの政策の二次的影響を慎重に検討しなければならない。移民の急増という厄介な形で自国経済に跳ね返ってくるからだ。

現在の世界経済と地政学の環境は次の移民の波にとって試練となる。国際通貨基金(IMF)と経済協力開発機構(OECD)は世界経済の成長予測を急速に下方修正している。また、エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)は、世界の経済圏のほぼ半分で政情不安と社会不安のリスクが「高い」か「非常に高い」と見ている。

こうした政情不安や社会不安はいつ起きてもおかしくないので、政治家は危機が起きるのを待って対応するのではなく、最悪の事態を回避するために行動しなけれなならない。

ダンビサ・モヨ 国際経済学者

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ダンビサ・モヨ / Dambisa Moyo

ザンビア出身の経済学者。米ハーバード大学修士、英オックスフォード大学博士。世界銀行、米ゴールドマン・サックスでの勤務経験あり

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