過酷な生涯の靴下を愛情持って作る タビオ会長・越智直正氏③

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おち・なおまさ 1939年生まれ。中卒後、大阪の靴下問屋にでっち奉公。68年に独立、靴下卸売業ダン(現タビオ)を創業し社長に。2000年大証2部に上場。02年英ロンドンに海外初となる店舗を開く。靴下の企画・卸・小売りで業界大手の座に就く。08年会長。

タビオといえば、女性向けの店と思うお客様が多いでしょう。実際、売上高の8割はレディスですが、タビオの始まりは「ダン」(旧社名)、すなわち「男」でした。靴下業界は当時、メンズの市場のほうが大きかったのです。

実は、メンズはレディスより作るのが難しい。メンズに100の技術がいるとすれば、レディスは70ぐらい。だからといって、手を抜いているわけではありませんが、それほどメンズが難しいのにはいくつか理由があります。

まず、デザイン、カラーの需要が少ないこと。レディスのように多種多様ではなく、女性のお客様のようにデザインで選ぶということが少ないのです。

また、男性はこだわりが強い。はく用途も、カジュアルやフォーマル、あるいはスポーツ向けなどに分かれており、用途によって糸を微妙に変えなくてはなりません。

過酷な生涯を送る靴下だから愛情を持って作りたい

さらに男性は、クレームを言ってくれる人はよいのですが、自分に合わなければ黙ったまま、二度とはくことはありません。たんすの肥やしになるだけです。

靴下は消耗品、リピーターになってもらってこその商売。だからこそ男性のお客様を確保するのは非常に難しい。それには、やはり原料から編みに至るまで細心の注意が必要です。

 そのためにはと、よい商品を求めて、百貨店や専門店に足しげく通った時期がありました。どこそこによい商品が置いてあると聞けば、飛んでいくのです。そして当時はガラスケースに収められていた商品を、店員さんに一つひとつ出してもらい、実際に手に取り五感を総動員してその感触を確かめました。

その商品の持つ風合いや繊維の復元力を確かめるには、体で覚えるのがいちばんです。私には、何ごとも体で覚えないと作れない、という思いがあります。「手を使って、よく学べ」。小学生のときにこう言われたことはありませんか。それこそ、職人の技につながるものと思っています。

靴下は身につけるインナーでもあり、おしゃれを楽しむアウターでもあります。しかも、一日中足で踏みつけられ、背広やネクタイのようにハンガーにかけてもらえるわけではない。これほど過酷な生涯を送る靴下だから、せめてお客様の手に渡るまでは愛情を持って作りたい。最高、最上の品質に私がこだわるのは、このような職業人としての心構えゆえです。

週刊東洋経済編集部
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