プロ野球「戦力外」から這い上がった男の心魂 このメンタリティは一般社会にも深く通じる

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端的に言うなればポジティブシンキング。だが、そこには冷静な自己分析もあった。オリックスで過ごした2年間、チーム事情もあって一軍での登板は少なかったものの、二軍では新たな自分の投球スタイルをつかみつつあることに手応えがあった。そしてこうも感じていた。

「僕は左投手なので、右投手に比べれば、まだ他球団に必要とされる確率が十分ありますから」

そこには虚勢を張る様子はまったく見られない。自分を客観視し、やるべきことをやり、余計な思考は排除する。“人事を尽くして天命を待つ”、まさにこのフレーズがピッタリの八木の姿勢があった。

『戦力外通告』2日後の出演オファーを快諾

そんな八木だからこそ、戦力外になった自らの状況すら受け入れる余裕があったのかもしれない。毎年、年末の風物詩となっているTBS系列の番組『プロ野球戦力外通告』。2014年の主人公として八木は出演を打診された。だがオファーを受けたのは、なんとクビ宣告を受けたわずか2日後のこと。それでも彼は出演を快諾した。普通の選手ならナーバスになり、取材や撮影に対して躊躇してしまうかもしれないが、彼は独特なポリシーを持っていた。

八木はTBSテレビ『プロ野球戦力外通告 クビを宣告された男たち~』の2014年末放送に出演。家族との会話などすべてをさらけ出した。

「僕は絶対に(番組に)出るって決めてたんですよ。クビはいつか誰にでも来るじゃないですか。そうなった時に、僕はこの番組に100%出るからって。で、クビになって球団スタッフから電話があった時『出ますよ、それ』って即答でした(笑)」

驚くべきは、野球人生のどん底を描くこの番組への出演を心に決めていたのは、なんと野球人生で最高の時だった9年ほど前のことだ。プロ1年目で新人王を受賞したオフに『プロ野球戦力外通告』の番組を見て、いつか出演したいと願ってすらいたという。

「いろんな選手が出演するじゃないですか。結果出したのにケガでダメになった人もいれば、鳴り物入りでプロに入ったのに結果も出せずクビになった人もいて、いろんなドラマがある。僕はプロ1年目で結果を出すことができたので、自分の中で多分ドラマを作れるなって思った」

そこには、したたかな計算もあった。当時から交際していた知佳さんと、プロ1年目のオフに結婚。八木が戦力外を受けた2014年には、7歳の長男を筆頭に、6歳の次男、4歳の三男、2歳の四男、そして生まれたばかりの長女という、5人の子どもの存在もあった。守るべき大切な家族。その全員に向けて残すべきメッセージがある、そう八木は思っていたのだ。

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