勝ち組負け組の対立を通して、人間のアイデンティティの拠り所はなにかを表現したかった--映画『汚れた心』ヴィセンテ・アモリン監督
■お金の障壁はないのに、人のためのバリアがあるのはおかしい
--移民問題というのは世界中どこにでもあると思います。現在の移民の現状について、監督の考えをお聞かせください。
特に現代社会でおかしいと思うのは、政治やビジネス、資金など、人以外はすべてグローバル化されています。でも、多くの国々で移民を防ぐバリアが作られています。移民の流入を防げばいろいろな問題がなくなるかもしれません。ですが、反移民政策や反移民という考え方が、その国の経済を実際に立て直せるかという問題とは違います。移民問題を、さまざまな問題のスケープゴートにしているすぎないということはみんな分かっています。
そもそもおカネの障壁はないのに、人のためのバリアがあるのは、おかしい。理想的な社会、世界においては市場や資本主義、労働力も含めて、人の移動を規制する必要がないはずです。
20世紀の始まりにおいては、日本、イタリア、ドイツからの移民が入ってきたが、戦争の有無とは関係なく、ブラジルの政府は移民の流入を止めて、そして今度は移民に抑圧を加えるようになった。そうした抑圧が勝ち組、負け組の対立の原因にもなった。
もし世界中の移民がブラジルに入ってこなかったら面白いブラジルという国にはなってないかと思います。ただ、多文化的な国になっても、ローカルカルチャーがなくなるべきではないと思います。できるだけ保存すべきだと思う。ローカルカルチャーを保存することによってもたらされる美もあります。
--日系ブラジル人は国内に100万人いるといわれていますが、その存在感というのは。
3世を含めればもっといるでしょう。今は移民への差別はなく、むしろ尊敬はされている。日本の子孫は、ブラジルの社会生活の中に溶け込んでいるといっていい。あまりにも溶け込みすぎて自分たちの元々のアイデンティティを失ってしまっている人もいるぐらい。基本的にブラジル人になっています。