勝ち組負け組の対立を通して、人間のアイデンティティの拠り所はなにかを表現したかった--映画『汚れた心』ヴィセンテ・アモリン監督

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--「勝ち組」と「負け組」が存在した理由には、情報の遮断というのがあった。それは言語を「知らなかった」「知っていた」ということになると思いますが、現代でもそういったことが起こる可能性はありますか。

それはいつでも起こりえます。われわれは情報が歪曲、操作された環境の中で生きています。自分たちよりも力がある者たちが、信じてほしいと思う方向に信じ込ませることは大なり小なりあります。それは哲学的な問題ではなくて、実際に死に至るような原因にもなり得る。この部屋にいる人間だけでも対立というのはあります。情報の遮断は、直接的ではないにしても対立の問題をさらに増殖させる力を持っています。

--政府が情報を操作する。日本では原発の情報を隠しているのでは、という疑念が多く生まれていますが、それも一例でしょうか?

そのとおりです。そうした例は日本に限らずどこにでもあります。古くて新しい気がするので、もしかしたらそれを乗り越えることは、残念ながら永遠にないのではないかと思えてしまいます。
 
 劇中に天皇陛下とマッカーサーが会見する写真を捏造するシーンがあります。これは隠喩的なことも含まれている。情報がどうやって操作されるかを、象徴をするようなたとえです。政府が報道機関をどう操作をするか、もちろんすべての報道機関が該当するわけではないですが、そうしたことが行われていることを隠喩的に表現したかったのです。


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--「操作されているかも」という情報に対して、われわれはどう接していけばよいのでしょう?
 
 権力を持つ者は必ず情報の操作を行っていると思います。ニュースを読む時には必ずこれが実際に起きたことなのか、ということを考えないといけない。起こったとしても、そのことをどう思わせたいのか、その意図を探る必要があります。
 
 良い意図だったとしても、そういう情報操作の例はたくさんある。たとえば解釈の問題かもしれないですね。作家であり人権活動家のスーザン・ソンタグの本にはそうしたことが書かれています。ある写真の外側に何があるのか、人に何を見せているのか、どこまで見せているか。そうした意図を見抜くためにはつねに注意を払う必要があります。

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