出版社への「飛び込み」が作家への道を拓く 黒木亮もきっかけは「飛び込み」だった
無名の新人でも、内容が面白ければ本を出してもらえるノンフィクションやビジネス書と違って、小説でデビューするのは非常に難しい。小説の読者は作家名で本を買う人が多く、そもそも小説などは読まなくても済むからだ。
小説でデビューするには新人賞を獲るか、持ち込みをするかのどちらかである。
業界をざっと眺め回すと、今活躍している作家は新人賞組が半分、持ち込み組が半分といったところだ。
ただ前述のように、推理小説、時代小説、恋愛小説などと異なり、経済小説は新人賞には向かない。名だたる経済小説家を見ても、新人賞でデビューしたのは城山三郎さんと深田祐介さんくらいしかいない。
文章修業の方法
銀行員、役人、重工長大産業の社員などは仕事で結構文章を書くので、人によっては、そこで基礎めいたものができる。私は邦銀のロンドン支店時代、国際融資の承認を一件取るのに、説明文だけで30~40ページ(附属資料を含めると100ページくらい)の稟議書と、東京の国際審査部からの質問に対する追加説明書を20ページくらい書いていた。
小説家デビューを目指していた頃、文章に関する本を2冊ほど読んだ。参考になったのは、①説明せずに描写せよ、ということと、②同じ場面で話者の視点が変わってはいけない、というごく基本的な2つの約束ごとだけだ。
作家になってからも編集者からアドバイスをもらったことはほとんどない。一度だけ講談社の文芸局の次長から「わたし」という一人称が多すぎると言われたので、以後気を付けているくらいだ。
表現に行き詰ったときは、城山三郎、松本清張、山崎豊子といった文章の上手い作家の作品を研究した。推敲は10~15回やり、ゲラの段階でも数ヶ月から半年かけて直す。
山口百恵もデビューした頃は歌が下手だったが、引退する頃にはかなり上手くなった。作家も長年やっていれば、文章が上手くなる。日々の仕事が一番の修練の場である。
仕事で文章修業の機会がないような人たちが、小説家教室で学ぶのはいいことだと思う。自分の書いたものを添削してもらうと、「文章はこういうふうに書くのか」とよく分かるはずだ。またサラリーマンとして真面目に仕事と人生に取り組んできた人であれば、1つか2つは作品にして多くの読者に読んでもらえるネタは必ずある。
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