米中経済戦争、これから何が起きるのか 経済覇権をめぐる"AIIB対TPP"の行方

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米国が仕掛けたTPPが中国に一帯一路やAIIB構想という対抗策を必要とさせ、またそれがTPP交渉の加速をもたらす。アジア太平洋の新たな秩序をめぐって、そうしたダイナミックな相互作用がおきているのだ。

最近の大きな変化は、TPPの大筋合意だ。中国にとってはTPPが成立しないこと、もしくは日本がTPP交渉から脱落してその規模が縮小するのがいちばん望ましかっただろう。これを受けて、中国も微妙にスタンスを変えている。 

AIIBの初代総裁に内定している金立群氏(元中国財政省次官)は15年10月に米国での講演で「中国はTPP加入に興味を持っています」と話した。さらに金氏は「ある人から、面白いことを聞かれました。『なぜ米国がTPPから中国を排除しているのに、あなたは米国のAIIB加入を歓迎するのですか』と。答えは簡単です。われわれはTPPより寛大で包括的だからです」とジョークを交えて語った。TPPの大筋合意後のオバマ大統領の「中国のような国に世界経済のルールを書かせることはできません」というコメントに対して一矢報いたものとみられる。

中国はTPPへ入るのか

中国は2014年の前半まではTPPへの興味を示していたが、ある時期からそうした声が聞かれなくなった。大筋合意を受けて再び国内での議論が活発化し始めたのだろう。2001年のWTO(世界貿易機関)加盟によって経済改革が大きく進んだことの再演を狙う勢力が根強くいるのだ。

米国も中国も、最終的にはアジア太平洋全体がひとつの自由貿易圏になるFTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)を通商戦略のゴールにおいている。そのベースをTPPになるか一帯一路になるかの争いを、あらゆる手段で続けているのである。

中国は通商交渉での巻き返しを図る。11月1日には、停滞気味だった日中韓FTAの交渉を加速することで日韓の首脳と一致した。中国は日中韓とASEAN(東南アジア諸国連合)10カ国に豪州、ニュージーランド、インドを加えた計16カ国が参加するRCEP(東アジア包括的経済連携協定)をTPPの対抗構想としたいと考えており、その交渉にも力を入れ始めた。アジア太平洋で米国抜きの枠組みをつくろうとしているのだ。

TPPで中国を包囲して圧力をかけるのが米国の戦略だが、それだけではなく既存の秩序に中国を招き入れるための動きもしている。12月17日に米国議会が、5年にわたって拒んできた中国のIMFへの出資比率引き上げを容認したのはそのひとつだ。

TPPの枠組みでは、先に入った国が新規加盟を希望する国への拒否権を持っている。日本は、中国に対して有力なカードを握っているわけだ。米中関係のダイナミズムを認識すると同時に、このゲームに主体性を持って臨むことが日本には求められている。だからこそ、AIIB対TPPという枠組みで世界を把握することの意味は大きいのだ。

西村 豪太 東洋経済 コラムニスト

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にしむら ごうた / Gota Nishimura

1992年に東洋経済新報社入社。2016年10月から2018年末まで、また2020年10月から2022年3月の二度にわたり『週刊東洋経済』編集長。現在は同社コラムニスト。2004年から2005年まで北京で中国社会科学院日本研究所客員研究員。著書に『米中経済戦争』(東洋経済新報社)。

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