「銀行同盟」の創設はユーロを救えるのか--ハワード・デイビス パリ政治学院教授

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しかも、条約の修正に関して住民投票を要する国々で、有権者がさらなる主権の移譲を支持する保証はない。銀行同盟はEUの長年のやり方どおり、既存の権力を使って構築される公算が大きい。すなわち、主権の問題を巧みに乗り切り、世論を問題にすることをいっさい避けるのだ。結局はECBに頼ることになる公算が大きい。

最後の問題は、ユーロ圏の銀行同盟が、単一の金融市場にとって、特に単一通貨圏の外にあるEU諸国にとって何を意味するかだ。そうした国々の多くは、ユーロが困難な状態にあろうとも、喜んで調印するだろう。だが、それは英国には当てはまらない。ロンドンは依然として、欧州最大の金融センターなのだ。

フランスとドイツは今や、厄介な英国に対する忍耐を失い、協定を結ぶことに乗り気でないのではないか。そしてユーロに懐疑的な英国の政治家たちは、これを英国とEUの関係を見直す機会ととらえている。EU脱退について交渉するチャンスと見る向きもある。

英金融街シティの見解は中道路線に傾いている。これは、英国が単一市場の恩恵を享受し続けることを認めてもらう一方、統一された規制を受け入れないというものだ。ただ、こうした条件を引き出すのは困難だろう。

ある種の銀行同盟が近く実現されると思う。さもないと、ユーロ圏の銀行システムは崩壊する。しかし、欧州が自由貿易へ向けた大実験として、こうした一歩を踏み出せば、その帰結は深刻なものになりうる。注意深く進めなければ、英国のEU脱退につながる可能性がある。これは政治的な大ばくちと言える。

Howard Davies
1951年英国生まれ。英オックスフォード大学で歴史学、米スタンフォード大学で経営学の修士号を取得。英中央銀行副総裁などを経て97年に金融サービス機構(FSA)の初代理事長に就任。2003~10年にロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)学長。

(週刊東洋経済2012年8月4日号)

記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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