イギリスは「テロとの百年戦争」の最中にある ロンドンは、ずっと過激派の標的だった

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しかし、SISやMI5もイスラム過激派対策では出遅れ、2005年7月のロンドン地下鉄・バス同時テロ事件を許した苦い過去がある。これは英国の諜報活動が伝統的に旧ソ連とIRA対策に重点を置いていたためだ。また世界中から人、モノ、金、情報が集まるようにして、そこから派生する経済活動で食べていく国のスタイルも裏目に出た。

そうした環境を作るために言論や宗教活動に寛容で、ロンドン市内のモスクでアブ・ハムザなどイスラム過激派の説教師が「米国人を殺せ、ユダヤ人を殺せ、英国人を殺せ。戦って死ねば天国に行ける」と説教し、若者たちを続々と海外のテロ組織に送り出しているのを黙認していたのである。

2005年7月のテロ以降、英国政府はSISやMI5の要員を増強してイスラム過激派対策に本腰を入れ、この半年だけでも7件のテロを未然防止している(なおアブ・ハムザは、2004年に逮捕された後米国に引き渡され、オレゴン州に戦闘員訓練キャンプを設置しようとした等11の罪で終身刑になった)。

テロ撲滅には何が必要か?

イスラムの教義に反するただのテロリスト集団であるイスラム国が滅ぼされるべきは当然だが、たとえ彼らを滅ぼしても、テロリストは次から次に現れるだろう。イスラム教徒のアラブ人がテロを引き起こすのは、長年欧米に裏切られた歴史や、米国の中東政策におけるダブルスタンダードへの憤りがあるからだ(例えば、シリア政府による市街地爆撃を非人道的と非難しながらヨルダンの非戦闘員に対するイスラエルの攻撃を支持するとか、核兵器の保有をイスラエルに認めるがイランには認めない等)。

北アイルランド第二の都市ロンドンデリーにて。後方のアパートの壁にIRAが絡む民族紛争の絵が描かれている

今、英国ではIRAのテロはなくなった。それは英国と、IRAを含むアイルランド側の話し合いが1990年代に進展し、1998年に和平合意が成立したからだ。これと同様に、欧米とイスラム教徒アラブ人の対話がない限り、テロの問題は解決しない。

また雇用における人種差別とそれがもたらす貧困がテロリストの温床になっている。

英国でも、アラブ系やイスラム教徒に限らず、有色人種に対する雇用差別は現実問題として存在する。白人の失業率は5パーセント程度だが、アフリカ系、バングラデシュ系、パキスタン系の失業率は15~20パーセントに達する。

有色人種は雇用で冷遇されるので、ユダヤ人、インド人、アラブ人などで優秀な人々は医師、看護師、会計士、IT関係など、手に職をつける。我が家の近所の病院も医師の多くはインド系とユダヤ系だ。また小学校で20×20までの暗算を習うインド人は数字に強く、郵便局の職員の多くを占める。それができない人々は、下働きや非正規雇用に甘んじるか、失業するしかない。

こうした差別を是正するための雇用制度改革や、職業教育支援が必要である(なお英国社会の仕組みや、世界各地の実情・取材の模様等を最新刊の『世界をこの目で』に書いたので、ご一読頂ければ幸いである)。

黒木 亮 作家

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くろき りょう / Ryo Kuroki

1957年、北海道生まれ。早稲田大学法学部卒、カイロ・アメリカン大学(中東研究科)修士。銀行、証券会社、総合商社に23年あまり勤務して作家に。大学時代は箱根駅伝に2度出場し、20キロメートルで道路北海道記録を塗り替えた。ランナーとしての半生は自伝的長編『冬の喝采』に、ほぼノンフィクション の形で綴られている。英国在住。

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