圧倒的な絶望、「子どもの貧困」の現場を歩く 母を入院させ、僕はひとりになった

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毎日自炊する。得意メニューは豆腐のみそ汁と、ネギと卵のチャーハン。たまの贅沢は「ちょっといい」ベーコンを買うことだ(写真/家老芳美)

大人が嫌いになった。助けを求めることすらできない自分のことは、もっと嫌いになった。その後一度も教室に入ることなく、小、中学校を卒業した。

定時制高校入学後、母は病状が深刻化し、一日に何度も倒れるように。啓太さんが呼んだ救急車がきっかけで入院が決まった。医師の判断とはいえ、嫌がる母を半ば強制的に入院させた罪悪感は今も消えない。

一人になった啓太さんは、生活保護費をやりくりして、家賃、学費、光熱費、食費などすべての家計の管理をこなした。今後の不安で眠れない夜が続く。当時の気持ちを、砂漠の中でお気に入りの砂粒を一つ見つけてこい、と言われるようなものだったと表現する。圧倒的な絶望感。一体これから自分と母はどうやって生きていけばいいのか、自問自答を繰り返した。

東京“周辺区”に集中

高層マンションやオフィスビルが立ち並ぶ大都市・東京。だが、目を転じれば、足元に貧困は転がる。所得格差が拡大し、裕福なエリアと、貧困のエリアが色濃く分かれつつある。

生活が苦しい小中学生に対し、学校生活に必要な経費を自治体が支給する「就学援助」の受給率が東京23区内で最も高いのは、板橋区だ。公立小中学校の入学説明会会場で、生活保護の申請書類を置くことも多い。

中川修一教育長は、就学援助や福祉施設の充実、都内最多を誇る精神科病床数など、「福祉の板橋」としてのセーフティーネットを求めて移住してくる人が多いのではと推測する。区の教育担当者は、家賃の安い都営住宅や障害者施設などが板橋のような東京の“周辺区”に集中しているため、それらを必要とする人が集まり、税収は減る一方で、福祉予算がかさむ悪循環が生まれているという。板橋区の2015年度予算では、教育費の割合が12.6%なのに対し、福祉費は58.7%にのぼった。

限られた教育費は何に投資されているのか。貧困層への対応よりは、先端教育への取り組みに力が入る。今年4月に新設した教育支援センターでは、英語教育やアントレプレナーシップなど、リーダー層を担う子どもの育成に向け研修を行う。ICT(情報通信技術)教育にも力を入れ、区内の公立小学校52校すべての教室に電子黒板を完備した。1校あたり年間リース代は約130万円。来春には全公立中学校にも入る予定だ。

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