【産業天気図・ソフト/サービス】金融関連需要で下期は「晴れ」。ただ競争激化で08年度の成長に不安感
ソフト・サービス産業は足下は活況ながら、2008年度に向けてはやや不透明感が出てきた。天気見通しは、07年度後半については「晴れ」に据え置くが、08年度は前回(9月時)の「晴れ」から「曇り」に変更する。
経済産業省の特定サービス産業動態統計調査(特サビ調査)によると、情報サービス業界の売上高は、07年10月まで7カ月連続で前年同月以上(横ばいを含む)となっている。直近の10月は前年同月比5.9%増だった。金融向けの受注ソフトウエアが好調だったほか、システム運用サービスも伸び、新型ゲーム機特需が一巡したゲームソフトの低調を補っている。
主要企業でみると、金融向け開発が強みの野村総合研究所<4307>が絶好調。今年度は07年9月中間期決算までに、今期業績予想を2度上方修正している。専業最大手のNTTデータ<9613>も金融関連の伸びが公共向けの軟調を補って堅調な業績推移だ。電機セクターの情報サービス事業でも、富士通<6702>、NEC<6701>、日立製作所<6501>の主要3社は大型コンピュータの採算悪化などハード面に懸念材料を抱えながらもソフト・サービス分野は堅調で、会社業績全体の下支え役となっている。また、中堅・中小企業のIT投資需要をきめ細やかに拾っている大塚商会<4768>やオービック<4684>も、安定的に収益を上げている。
だが、08年度に向けての懸念は、業界中堅以下の情報サービス企業に失調感があることだ。中堅群では富士ソフト<9749>やTIS<9751>が業績予想を大幅に下方修正したのをはじめ、新興企業の中にも計画の大幅な未達や下方修正が散見された。「ITバブル期以上の書き入れ時」(業界大手関係者)とされる今期にあって、中堅以下層が失調する理由は、業界企業数の増加に伴い競争が激化しているためと思われる。経産省の統計によると、情報サービス業界では総売上高こそ伸びているものの、06年度の1社当たり売上高は10.5億円と前年度のほぼ半分に急落している。
また企業数の増加は、情報サービス業に根深い多層的な受発注構造を拡大する要因であり、ひいては複雑な受発注関係を温床にした「灰色取引」を招く一因でもある。大型のシステム開発なら第6次請け業者までいるという情報サービス業界では、取引企業の間で実際のモノのやり取りがないのに売り上げ計上する「スルー取引」のような不適切な商習慣が問題となっている。こういった取引はひとたび滞れば、主に下請け企業の業績を急悪化させるおそれがある。
企業数の増加にともなう競争激化と多層にわたる受発注構造のひずみは深刻化しており、案件の不採算化などを通じて、収益基盤の脆弱な業界中堅以下の企業にとって業績を悪化させる要因になりかねない。08年度に向けてはそうしたリスクがより高まるものとみている。また、危機感の強い中堅企業のあいだでは今後、TISとインテックホールディングス<3819>の経営統合のような合従連衡が増える可能性もあるだろう。
【杉本 りうこ記者】
(株)東洋経済新報社 四季報オンライン編集部
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