日銀の政策対応は、後手に回りすぎている 今から信頼性を回復する唯一の手段とは?

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黒田総裁の戦略に欠けている重要な要素は労働市場だ。総裁は、日本が完全雇用状態にあるため、賃金と物価はやがて上昇すると主張している。だが、日本が最後にコアインフレ率2%を達成した1990年代初めの失業率は2.4%だった。1991年以降のデータに基づけば、現在の失業率3.4%からはじき出されるインフレ率は、約0.5%になる。

総裁は企業に対しても、実力以上の賃上げを指導している。しかし、同じく1991年以降のデータを踏まえれば、名目賃金が年率2%上昇するには、失業率が2.6%以下に下がる必要がある。

問題は、日銀自体に失業率低下のツールがないことだ。利下げによって住宅や自動車の購入が促進され、企業の投資が増加すれば、失業率を低下させることができる。しかし、金利が実質的にゼロである現在では、この図式は通用しない。

まずは景気回復、財政再建はその次

今日では、失業率低下への最も有効な手段は財政刺激策だろう。しかし、黒田総裁は政府に逆行を求めている。税金を上げて支出を削減するのである。彼は、さらなる財政支出が政府債務を増加させると警告している。

だが実際には、日銀が多くの日本国債を購入しているため、日銀を除く1人当たりの政府負債の対GDP(国内総生産)比は、2011年に152%だったが、直近では129%に下がった。今後も低下していくだろう。

合言葉は、「まずは景気回復、その次に財政再建」であるべきだろう。財政政策を失業率低下のために使い、その結果生まれる政府負債の買い取りに金融政策を使うべきなのだ。

週刊東洋経済11月28日号

リチャード・カッツ 東洋経済 特約記者(在ニューヨーク)

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Richard Katz

カーネギーカウンシルのシニアフェロー。フォーリン・アフェアーズ、フィナンシャル・タイムズなどにも寄稿する知日派ジャーナリスト。経済学修士(ニューヨーク大学)。目下、日本の中小企業の生産性向上に関する書籍を執筆中。

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