一人っ子政策の「黒歴史」を忘れてはいけない 「権利意識」がガラリと変わった一人っ子世代

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大学時代に同級生たちとグループ作業をやろうとしても長く続かなかった。「他人の意見を聞きながら、それをとり入れて意見を取りまとめることが誰一人できなかった。みんなばらばら。まず自分が一番。小皇帝なんだもの。だから連帯感なんて生まれなかった」

中国では家の中だけではなく、外でも「一人ぼっちだな」と感じ続けていたという。

わたしが北京で暮らしていた頃、付き合う友人たちの中に占める「一人っ子世代」はますます増えていた。彼らと話していると、彼らが「一人っ子であること」は社会における「言わずもがなの前提」として捉え、すべての話題がそうした現実を元に進むのが普通だった。

そんな「一人っ子」生活を「寂しい」というのを聞いたのは、日本の大学院に留学してすでに5年になるというその彼女が初めてだった。それは幼い頃になまじ日本の小学校生活を彼女が体験したせいなのだろう。

その彼女も、「わたしの妹が…」と言いかけて、笑った。「わたしたちは一人っ子で兄弟がいないから、いとこたちを兄弟代わりにこう呼ぶのよ」。そう。一人っ子世代の彼らにとって、父や母方の同世代のいとこたちが「兄弟」なのだ。だが、親の故郷を離れて都会に暮らすようになった核家族にとっては、その「兄弟」もただの呼び名に過ぎない。

実際に彼女自身、今秋日本に留学して来た「妹」を預かっているうちに、習慣も違うし、一緒にアパートを借りて住むのは難しいかなと感じ始めたそうだ。

従来の「定説」がひっくり返された

これまで約40年間、一人っ子政策は以下のようなさまざまな「定説」がスローガン化され、推進されてきた。

「中国の人口分布はばらばらで、チベットやウイグルは居住に向かないから、面積が広くても外国と同じにはいかないのだ」「一つのケーキを10人で分けるならともかく、100人で分けるとどうなる?」「人が増えると使う資源も増える。そうすれば一人あたりの資源が少なくなっていく」「都市はもうぎゅうぎゅう詰めだ。不動産価格もうなぎのぼり。これ以上人が増えたらどうする?」「子供が少なければそれだけ潤う。産めば産むほど貧しくなる」「産むのは一人でいい。年をとったら政府が養ってくれる」

だが、これらの口語化された物言いに対して、今回の「2人目全面解禁」は、「人口のボーナスが減り、経済成長が減速した」ことを堂々と理由の一つとして論じている。つまり、すでに計画出産の掛け声が始まっていた1970年代以降に生まれた労働力が足りなくなり、それが経済成長鈍化原因の一つだというのだ。

これは明らかに、「人が増えれば資源は減る」「少なければ少ないほど潤う」としていたスローガンとは逆の現象である。さらなる現実として、経済成長が鈍化し、納税者の総体数も減れば、税収は減り、「年をとったら政府が養う」というスローガンの実施も怪しくなる。

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