一人っ子政策の「黒歴史」を忘れてはいけない 「権利意識」がガラリと変わった一人っ子世代

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その福利院では熱心に海外(主にアメリカ)との養子縁組を進めており、集められた子どもたちは定期的に養子を求めて訪れる外国人に紹介され、貰われていく。もちろん、養父母はそれなりの謝礼を福利院に支払う。

その村の計生委は、その謝礼を目当てに、両親が出稼ぎに出て老人が孫の面倒を見ている家に目をつけて、「政策違反」を理由に子供たちを取り上げ、福利院に送り込んでいた。目をつけられた子供達の多くがその家庭にとって一人っ子であったにも関わらず、だ。知らせを受けた親たちが飛んで帰ってきても、あの手この手でそれを遮り、子どもたちに会わせなかったという。

この記事をたれこみを受けて何年も一人で取材して書き上げたパン皎明・記者はその後、アメリカ側の養子縁組機関の協力により、中国の両親が必死になって探す子供たちの一部が、アメリカの家庭で大事に育てられていることを突き止めた。[パン皎明・記者の「パン」はマダレに「龍」。]

孤児だと思って引き取った、米国側の養父母も動揺を見せ、中には連絡が取れないように引っ越してしまった家庭もあったという。中国側の親は「返してほしい」と主張する者もいれば、「このまま中国で暮らすより幸せになれるかも」と涙ながらに子供を諦めた者もいた、とパン記者から聞いた。彼はまだ見つかっていない子共たちの追跡調査を諦めていないが、すべてを解明しても皆が幸せになれるとは限らないと言葉を曇らせる。

傷を負った親たちは、どんな思いでいるのか

国の政策によって与えられた権力をカサにきた、こうした事例は一つの個別ケースではないはずだ。だが、こうした事例が世にでるのは難しいのも事実である。

わたしも今回の「2人目出産全面解禁」の発表に一番に思ったのは、厳しい一人っ子政策で心や体に傷を負った親たちのことだった。

2人目を強制的に流産させられた人。あるいは強制的に避妊措置を受けさせられた後、一人目の子供を失った人。体力的には2人目が産めるはずなのに、すでに避妊手術をうけ(させられ)てしまった人…彼らはどんな思いで今回の発表を聞いたのだろうか。

政府は今のところ、これまでに2人目、3人目を産んで、罰金を払わされている人たち、あるいは職場を追われた人たちについての処遇には全く触れていない。2人目の出産がネックになり、一人目の子供が就学差別を受けている例も少なくないのだが、それらに対してはなんの発言もないままだ。

そして、悪名高かった、この計生委も役目を終えることになる、と言われている。報道によると、政府によって権力を与えられていたこの計生委は、末端行政区域に至るまで100万人を超える大規模集団だという。これらの人たちの就業をいかに国は確保していくのか、それはまた「2人目解禁」における、もう一つの課題だ。

(邵陽市の福利院に関する報道はその後、「The Orphans of Shao」として英語で書籍化されている。現時点では中国語の報道は『新世紀』のバックナンバー記事以外発表されていない。なお、この事件を取材したパン記者はその後、当局のさまざまな取材妨害に遭い、身の危険を感じて中国を離れた。現在香港で『明報』中国担当記者として働いている)

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