天才数学者が決闘死前夜に残した奇跡のメモ 青木薫が味わうNHK数学ミステリー白熱教室

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エドワード・フレンケル(Edward Frenkel)/1968年旧ソ連生まれ。父親がユダヤ人との理由でモスクワ大学の入学試験で全問正解したにもかかわらず不合格となり、やむなく石油ガス研究所(日本でいうところの工業大学)に入学、応用数学を学ぶ。一方で純粋数学の研究を続け、在学中にハーバード大学に客員教授として招かれる。その後、ラングランズ・プログラムと出合い、量子物理学にまで拡張。カリフォルニア大学バークレー校の数学教授。親日家でもある。「愛の数式」をテーマとする映画を製作・出演

さて、そこから一気にフレンケルは、2次方程式における対称性(√2と-√2という二つの解があること)を3次方程式、4次方程式、5次方程式にまで拡張していき、これまでに見えなかったまったく違う道筋を示した数学者の話をするのだ。

それがガロアだ。ルネサンス期の数学者たちが解の公式をみつけて方程式の解を得ようと血道をあげていた話は冒頭に書いたが、どうしても導きだせなかったのが、5次方程式の解の公式。その公式がわからずとも方程式の解の性質をまったく別の方法でわかる、という道筋を示したのだ。

一般に方程式を解くということは、たとえば2次方程式「ax2+bx+c=0」の場合なら、xをa、b、cで表すことである。そうして解の「公式」を求めておけば、いつでも即座に答えを出せるというわけだ。

かつては、問題を出されたときにすぐに答えられるどうかが、数学者としての力量のみせどころだったから、2次方程式はもちろんのこと(これは9世紀には、解の公式が得られていた)、数学者たちは3次、4次の方程式についても、解の公式を求め(これらは16世紀の後半に得られた)、いわば企業秘密として、ライバルたちから隠そうとしたのだった。

そもそも問題の立て方が間違っている

ところが、数学者たちの懸命の力にもかかわらず、5次の方程式の解の公式はみつからず、ガロアが登場するまで、300年にわたり謎のままにとどまっていたのである。

ガロアは、解の公式を具体的に求めようとはしなかった。公式を求めようとすることは、そもそも問題の立て方が間違っている、と彼は考えたのだ。そうではなく、方程式の解について考えることのできる、数の世界の対称群ーー今日「ガロア群」と呼ばれるものーーの性質を調べればよい、と彼は論じたのである。

2次方程式の場合なら、それは蝶の対称性を考えることだった。ガロアは、方程式を解くという問題を、対称性の問題へと飛躍させた。そうすることで、数学者たちが方程式というものを見る目を永遠に変えてしまったのである。

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