天才数学者が決闘死前夜に残した奇跡のメモ 青木薫が味わうNHK数学ミステリー白熱教室

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そんなわたしの心配は杞憂だった。はじめのうちこそ、「そんなに余裕しゃくしゃくで楽しげにしゃべっていて、ガロア理論までたどりつくの?」とハラハラしていたわたしだったが、いつのまにかフレンケルの語りにすっかり引きこまれていた。講義には印象的なエピソードがちりばめられ、しんみり余韻を残すシーンさえあった。

20歳にして決闘で命を落とすことになるガロアが、その前夜、死を予感しつつ自らの大切な理論を書き残したときの思いーーフレンケルをその手紙を、ガロアが人類に宛てたラブレターだと言う。あるいはまた、ルネサンス期の数学者たちが、「方程式の解の公式」を見つけようと懸命の努力をしていたことーー方程式をすばやく解けるかどうかに、彼らの生活がかかっていたのだ。

わたしがとくに感銘を受けたこと

しかし、わたしがとくに感銘を受けたのは、フレンケルが、数論の対称性をみごとに印象づけ、数論の研究にとりくむ数学者たちの基本思想というべきものさえ語りえていたことだった。

蝶の羽のように、数にも対称性がある

フレンケルは、なぜそんな離れ業を演じることができたのだろう? 興奮冷めやらぬなか、番組終了後にそう考えてみたわたしは、おそらく成功のカギは、1枚の簡単な図にあるのではないかと思い至った。

蝶の対称性(第1回の講義で扱った幾何学の対称性)と、ピタゴラスの定理から導かれる X2=2という2次方程式の解の対称性とを重ねた印象的な図がそれだ。蝶は、右の羽と左の羽を交換しても形は変わらない。では、方程式の解はどうだろうか。

1辺の長さが1であるような直角二等辺三角形を考えたとき、ピタゴラスの定理から、斜辺の長さは√2である。たしかに斜辺の「長さ」なのだから、x2=2の答えはx=√2であるに違いない。しかし、そこにはちょっとした秘密が隠されているのだ。図形ではなく、方程式という観点から見ると、マイナスの数、x=-√2もまた、立派な解なのである((-√2)×(ー√2)=2)。

そうしてフレンケルは、これら二つの解がもつ対称性(√2と-√2は裏表のようだ)は、蝶の対称性と同じだと語る。そして、見えにくいその秘密に気づくことで、世界が広がることを教えてくれたのだ。

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