金融業務に対しては、強い規制がある。新規参入、組織運営、金融商品などに対して規制があるが、とりわけ重要なのは、預貸金利差の規制である。
定期預金金利が3・5%で貸出金利が6・56%であり、預貸金利差は約3%にもなる。日本では、三菱東京UFJ銀行の場合、11年度で貸出利回り1・39%、預金等利回り0・05で%あり、預貸金利差は1・34%でしかないことと比べると、大きく違う。日本国内の状態に比べれば、中国での銀行業の環境は天国のようなものだ。
利ザヤがこのように大きいので、中国における銀行収益のほとんどは、利息収入である。05年の大型商業銀行(中国農業銀行を除く)の収益のうち、85%以上が利息収入になる。
利幅を大きくして収益を保証するには、参入を制限せざるをえない。かつての日本と同じ構造だ。しかし、この構造が望ましいとは言えない。強い規制の下で利益を保証された産業でイノベーションが起こるはずはない。日本がそうだった。学歴エリートが集まるが、先端金融業務は進展しなかった。
中国の政策当局もこのことは認識しているだろう。だから、中国はいずれ自由化に向かわざるをえないはずだ。こうして、利ザヤは将来縮小するだろう。したがって、中国に進出した日本の金融機関が今後も高い収益率を実現できるかどうかは、疑問である。
また、株式市場や債券市場が発達すれば、これまでの顧客だった大企業は、資本市場からの資本調達にシフトしていく。
そして、競争が激化し、本当に実力のある金融機関だけが残ることになるだろう。銀行は収益構造を多様化する必要に迫られる。間接金融への参入だけでなく、直接金融の投資銀行的業務も必要だ。
さらに、中国国内業務だけでなく、広くアジア諸国を視野に入れた業務が必要である。
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。(写真:尾形文繁)
(週刊東洋経済2012年6月16日号)
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