中国軍「実戦派トップ」を排除した習近平の暴走。軍の機能不全を承知でイエスマンを並べる"台湾侵攻"の危うい現実

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それでもあえて習氏が張氏の粛清に踏み切ったのは、表向きの理由とした汚職だけでなく、独裁者が軍に対して抱く強い猜疑心が背景にあります。ロシア政府の元幹部は「権威主義国家ではトップ以外の権威はすべてつぶされる運命にある」と語ります。

理にかなわない軍事行動の懸念高まる

習氏は軍幹部を総入れ替えし、自らに絶対的な忠誠を尽くす人間で固める方針のようです。軍機関紙の解放軍報は31日付の1面に掲載した張らの汚職疑惑に関する論評で「思想上、政治上、行動上で習近平同志を核心とする党中央と高度に一致する必要がある」と記しました。

こうした粛清は、中国軍にどのような影響をもたらすのでしょうか。まず挙げられるのが、幹部たちが生き残りのために常にトップの顔色をうかがうようになることです。最高指導者の意向と異なる意見を唱えたら即座に反逆とみなされると恐れるためです。

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結果として、トップが専門的な助言を得られない「裸の王様」になる可能性が高まります。戦場でも現場の事情を踏まえないトップの指示に反することができず、多くの犠牲を生むことになります。

スターリンは1937〜38年の大粛清で、名将として知られたトゥハチェフスキー元帥ら軍幹部の大半を銃殺刑に処しました。その直後の39年、短期で占領できるとみて小国フィンランドへの侵攻を決めましたが、側近は誰もそれをいさめることができませんでした。

実際には指揮官の質の低下により、人口比で50分の1のフィンランドに予想外の大苦戦をすることになりました。スターリンはこの教訓を後の独ソ戦に活かすことになりますが、その代償は30万人とも推計される自軍の死傷者でした。

ロシアのプーチン大統領も22年2月、短期で占領が可能との軍や情報機関の予測を基にウクライナへの侵略を始めました。軍や情報機関にプーチン氏の意向に沿った楽観的な報告を上げようとする忖度が働いたのは間違いありません。実際には予想外のウクライナ側の抵抗にあい、4年を経ても当初もくろんだ首都制圧にはほど遠い状態が続いています。

張氏らの粛清に欧米の軍や情報機関が注目するのは、中国も過去のスターリンやプーチン氏のような理にかなわない軍事作戦を始めるリスクが高まった懸念があるからです。台湾有事で大きな影響を受ける日本も、今回の粛清劇は決して人ごとではありません。

田中 孝幸 国際政治記者

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たなか・たかゆき / Takayuki Tanaka

大学時代にボスニア内戦を現地で研究。新聞記者として政治部、経済部、国際部、モスクワ特派員など20年以上のキャリアを積み、世界40カ国以上で政治経済から文化に至るまで幅広く取材した。大のネコ好きで、コロナ禍の最中で生まれた長女との公園通いが日課。著書に『13歳からの地政学』など。ツイッター:https://twitter.com/spiritof1993ya1

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