旧日本軍は、太平洋の島々を単なる前線基地ではなく、アメリカ軍の兵站を攪乱する「海上の生命線」と位置づけていた。国際条約による露骨な軍事化の制約を避けるため、港湾や滑走路などは漁業調査や気象観測といった「民生目的」を装って整備されていた。これが平時に基盤を築き、有事に活用するという発想である。
アメリカでもこの種の分析は現実の戦略議論に影響を与えつつある。25年11月、アメリカ連邦議会の諮問機関「米中経済安全保障検討委員会」が公表した報告書では、中国が太平洋諸島で戦略的影響力を拡大する活動を継続しており、経済・外交的手段と軍事的意図が重層的に絡んでいることが指摘された。
中国の進出には、歴史と現代の戦略が交錯する側面がある。「旧日本軍の島嶼戦略」の手法がそのまま再現されているわけではないが、平時のインフラ整備を通じて戦略的価値のある地点を押さえるという考え方には類似点が指摘される。
ワシントンのシンクタンク「民主主義防衛財団(FDD)」によると、グアムの南約670キロメートルにあるミクロネシア連邦ウォレアイ環礁では、旧日本軍が戦時中に建設した滑走路を中国企業が再建中だ。滑走路とターミナルはほぼ完成し、2月に開設のための検査が予定されている。アメリカ軍基地の至近で行われるこうしたインフラ整備と軍事的利用の両立には、強い懸念がある。
太平洋島嶼国への経済・外交を通じて影響力拡大
過去20年余りで中国は太平洋島嶼国の主要な貿易・投資相手国となった。観光、インフラ、資源開発を通じた経済関与は、島嶼国の中国依存を強め、外交的選択肢を狭めている。2010年時点では南太平洋島嶼国12カ国のうち6カ国が台湾と外交関係を維持していたが、その後キリバスやソロモン諸島などが中国に接近し、台湾との国交を断絶した。
中国は経済的影響力をテコに、国連など国際機関での支持も取り付けてきた。さらに近年、中国は治安支援や警察協力といった名目で、安全保障分野にも踏み込んでいる。この動きは、中国モデルや権威主義的統治手法が島嶼国に浸透する懸念を生んでいる。
中国のソロモン諸島、フィジー、サモア、キリバスへの接近は、旧日本軍が太平洋戦争期に目指した「米豪間の連絡遮断」という戦略を想起させる側面がある。


















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