サウジアラビアに傾注する住友化学の危うさ 収益貢献はまだわずか
また、仮に目標に届いても、住友化学が当初描いた青写真には程遠い。10年2月に発表した中期経営計画では、13年3月期の持ち分法投資利益を400億円と定め、そのうち、過半をラービグで稼ぐ方針だった。
もともと2期計画は10年末に決定する予定が、経済情勢の変化もあり1年半近く遅らせた。合弁相手のアラムコ側との関係も含めて、これ以上の先送りはできなかったのかもしれない。それでも、1期計画における投資回収の道筋すら明確となっていない段階で決定された“見切り発車”の感が否めないばかりか、2期工事では1期工事と違うハードルも立ちはだかる。
汎用品が主体の1期に対して、2期では高機能品のプラントを新たに立ち上げる。計画の中には住友化学が生産技術を保有していない製品も含まれており、第三者との協業が必要になるなど、未開の領域に挑む難しさがのしかかる。
財務面でもじわりと影響を受け始めている。12年3月期末時点で、有利子負債残高は1兆0530億円に上る。安全性を見るための負債資本倍率(D/Eレシオ)は1・5倍となり、有利子負債が株主資本を上回る状況だ。化学大手の中でも財務基盤の脆弱性が指摘されている。
巨額負債をレバレッジに収益力を一段と増すことができれば問題ないが、結果は出ていない。12年3月期の連結経常利益は、三菱ケミカルホールディングスや旭化成、信越化学工業といった国内の化学大手と比べると2倍以上の開きがある。
ある競合メーカー幹部は、「上位との差を埋めるために、1000億円をサウジに投じるのが最適なのかは疑問がある」と一蹴する。
03年に三井化学との合併交渉が破談した住友化学。新たに世界で勝ち残るための競争力獲得を狙いとして、当時の米倉弘昌社長(現会長)が主導し、まさに社運を懸けたのがサウジのプロジェクトだ。吉と出るか、凶と出るか。巨額投資への危うさを抱えながら、後に引けない拡張工事が始まろうとしている。
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(武政秀明 =週刊東洋経済2012年6月9日号)
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